【千原弁護士の法律Q&A】221 退会後の会員の誹謗中傷の対応について

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”警告文送付などが一般的対応”

(質問)
 ネットワークビジネス(NB)企業ですが、退会後の会員への対応についての質問です。元会員Aは、他のNBの勧誘をしたため除名退会となりましたが、退会後も、当社の会員にアプローチをして、他社勧誘を行い、また、当社の誹謗中傷を繰り広げています。そこで、当社ホームページ上に、Aの名前や違反事実を掲載して全会員に注意喚起しようと思います。ただ社内では「やり過ぎでは?」という声もあり、先生のご意見をうかがいたいと思います。また問題がある時は、他にどういった手段が考えられますか。       (NB主宰会社社長)



(回答)
 検討されているHPへの公表は、Aへの名誉毀損行為にならないかを検討する必要があります。やや専門的ですが、以下に説明します。
 (1)一般に名誉毀損は、「他人の社会的評価を低下させる事実」を「流布」した場合に成立します。Aの規定違反行為をHPに記載することは、間違いなくAの社会的評価を低下させ、HPへの記載は「流布」であり、原則として名誉毀損に該当してしまいます。
 (2)例外的に、その表現が、(1)公共の利害に関し(2)専ら公益を図る目的でなされたものであり、かつ(3)その事実が真実であると証明されたときは、名誉毀損にはなりません。
 殺人事件の犯人の実名や犯罪事実がマスコミに報道されるケースです。しかし、本件では、上記(1)及び(2)の要件を満たさない可能性があります。まず(1)の要件(「公共の利害に関し」)は、「公衆が、広くその件について関心を寄せるようなものかどうか」ですが、Aが貴社の規定に違反したことは、確かに貴社にとっては重大な事実ですが、「公衆」が、この件について広く関心を寄せるとまでは言えません。
 また、(2)の要件(「専ら公益を図る目的」)についても、公表は、Aに対する制裁目的等の側面が強いものであり、この要件も満たさないと思われます。
 (3)以上から、結論としては、貴社が公表を実行した場合、貴社に名誉毀損が成立し、貴社はAに対し、損害賠償責任(民法709条)及び名誉回復措置の責任(謝罪広告等)(民法723条)を負う可能性があります。

(続きは、「日本流通産業新聞」10月6日号で)

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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