【ニュースの深層】□□158 <東京都 カスハラ防止条例> 都と団体でマニュアル策定へ企業間取引も適用対象に/訪販業界団体で対応進む(2024年5月9日号)

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 顧客などから受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について、東京都は、カスハラ対策に向けた防止条例の具体案を示した。4月22日に開催した第4回の検討部会では、カスハラの定義や中小企業でも対応可能な業種別のマニュアルを策定したり、業界団体が協力して進める対応も示された。まずは、都が共通マニュアルを策定した上で、それぞれの業界団体や企業がマニュアルを策定する流れを示した。また、一般消費者だけではなく、企業間取引についても適用対象とする方向性も示された。出席した委員からは、他の地方自治体に先駆けて防止条例を策定することで全国への波及が期待できるとの声があった。長年にわたってカスハラに悩まされている通販・訪販企業も適正な対応環境の醸成に向けて期待が高まりそうだ。
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 「カスタマーハラスメントが行われた場合、お客さまへの対応はしない」
 JR東日本は4月26日に発表した「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」の中で、不当な行為について厳格に対応していくと説明した。
 都が23年10月からカスハラ防止条例の制定に向けて動くのに対応するかのように、大手企業がカスハラへの対応を積極化している。
 都は4月22日に開いた第4回目の検討部会で、条例のたたき台を示した。事務局が開示した資料では、「カスハラ」について、労働者の人格や尊厳を傷つけ、就業環境を悪化させ、サービス環境を低下させるものとした。
 カスハラによる「著しい迷惑行為」は、暴行、傷害、脅迫、強要、名誉棄損、侮辱、業務妨害など違法な行為とした。申し出内容や行為の手段、態様が社会通念上、認められないものを「不当な行為」とし、いずれかに該当する行為をカスハラと定義する方向で調整するとした。
 ルールの体系のイメージとして、都が策定する「条例」が基本理念やカスハラの定義、責務や役割を担い、その下にカスハラの詳細や類型、事業者が務める取り組みを「ガイドライン(指針)」とし、「各団体の共通マニュアル」を策定するという流れを示した。
 出席した委員からは、一般消費者との取引に加えて、企業間取引についても適用して、下請けとの適正な取引を求める声があった。
 業界団体側の出席委員からは「グレーゾーンの対応も含めたガイドラインを示してほしい」「カスハラ専門部署が設置できない中小規模の事業者も対応可能な事例を示してほしい」「カスハラについて相談できる窓口を設けてほしい」といった要望もあった。
 また、警視庁の出席委員はカスハラを受けた店舗からの通報など民事不介入のケースについて、「通報があれば現地に出向き、刑罰法令に触れる場合は法と証拠に基づいて適切に対応する」とコメントした。さらに「ただちに犯罪を構成しない場合であっても、その後の被害を防止する観点から個別の状況に応じて適切に対応する」とした。
 訪販の業界団体もカスハラ対策への啓発に乗り出している。
 公益社団法人日本訪問販売協会(事務局東京都)はこれまでも、クレーマーやカスハラをテーマに掲げ、委員会や懇談会などで事例研究、講座を開催したり、季刊誌に記事を掲載したりして啓発活動に取り組んできた。また、協会内の消費者相談室やADR機関で、消費者だけでなく企業からの申請対応も行っている。
 一般社団法人全国直販流通協会(事務局東京都)は23年12月に、消費者相談窓口担当者勉強会の一環として、ACAPから講師を招いて「顧客からの不当要求・悪質クレーム対応」と題したセミナーを開催。2月には、コンプライアンスセミナーの中で、協会顧問の千原曜弁護士による講習会「『カスタマーハラスメント』『クレーマー』対策について」を実施している。同協会は業界団体としてのガイドライン策定について、「会員社からのニーズも聞き取りつつ検討したい」(事務局)とコメントしている。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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