千原弁護士の法律Q&A】▼184▲ 「後出しマルチ」規制で業界への影響は?

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千原 曜 弁護士

千原 曜 弁護士

〈質問〉

 特定商取引法の改正で「後出しマルチ」が規制される可能性があるという報道を見ました。これは、どういうことでしょうか。また、これまでネットワークビジネス(NB)を行ってきた会社には、何らかの影響があるのでしょうか。(NB会社社長)

〈回答〉 「愛用者会員」制度採用企業に影響も

 ご質問のとおり、消費者庁は、特定商取引法の「大規模な改正」を予定しており、3月5日には、消費者委員会で第1回目となる特定商取引専門調査会が開かれました。初会合でも、複数の委員から、ご質問の「後出しマルチ」について問題提起があったということですから、今後の法改正の検討の中で、具体的な議題に上がる可能性は高いと思います。
 さて、「後出しマルチ」ということ自体、まだ法的な定義はないのですが、(1)もともとネットワーク販売が予定されている(2)しかし最初は、商品売買のみの取引を装い高額の商品を販売する(3)購入者から「代金の支払いがきつい」などと言われたタイミングで「実は代理店になって商品販売をすると、きっと儲かりますよ」と言ってNBに勧誘する─というタイプの問題商法のことを指しているようです。
 「後出しマルチ」対策というのはつまり、このような「怪しい商法」への規制のことですので、特定商取引法を守って、概要書面・契約書面を交付し、クーリング・オフの申し出にもしっかりと対応しながらリクルートをしている、まともなNB会社にとっては、改正があったとしても影響はないと考えて良いでしょう。
 むしろ、NBの面汚しとも言うべき、そういう悪徳会社に、一刻も早く退場していただくという意味では、改正による規制は良いことだと思います。
 ただし、ちょっと気がかりなことがあります。それは、「愛用者会員」制度を採用しているNB会社に影響があるかもしれないという点です。
 近年は、多くのNB企業が、ビジネスには参加せず商品だけを購入する「愛用者会員」の募集に力を入れています。「愛用者会員」が商品を愛用するだけならば問題は生じませんが、「愛用者会員」として登録した人がその後に、「ビジネス会員」として改めて登録し直すケースも少なからずあるでしょう。そのようなケースも、捉え方によっては、「後出しマルチ」と判断されることがあり得ると思います。
 そこで、愛用者会員制度を採用されている、NB会社としては、今後の後出しマルチ規制の内容はよくウォッチしておいたほうが良いでしょう。
 また、愛用者会員制度を採用しているNB会社において、「会社がNB会社であることを、わざと隠したまま、愛用者会員を募集し、その後、システム的にビジネス会員の勧誘をする」という形・評価が、もしあるとすれば、早めにそのような体制は改めた方が良いと思います。
 このような体制は、今でも、勧誘目的の告知義務違反として問題にされる可能性があると思いますし、仮に「後出しマルチ」の規制がなされたら、完全にブラックになる可能性が少なからずあると考えます。
 そこで、「愛用者会員」を募集するに当たっても、「ビジネス会員」として登録する方法もあることや、「愛用者会員」から途中で「ビジネス会員」になる方法もあること、などを、事前にはっきりお示しするべきだと思います。
 さらに、「愛用者会員」にまで概要書面をお渡しすることは、現時点で法的には要求されていませんが、お渡ししておけば、万全ではないかと思います。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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