楽天は来春、「楽天市場」を中心としたEC事業を子会社に移管する。楽天はEC事業だけの会社ではなく、金融事業が第2の柱として台頭しているのは周知の事実。携帯キャリアへの参入を表明しており、モバイル事業を新たな中核事業に据える方針も明らかにしている。グループの再編は「EC」「金融」「モバイル」の三本柱を強固なものにするための”攻め”の一手と捉えることもできる。一方、EC事業が子会社に移管されることで、「楽天内での楽天市場の優先順位が下がるのでは」「店舗の声が三木谷浩史社長に届きにくくなるのでは」と懸念する声もある。
■名実ともに一事業に
楽天は97年、ECモール「楽天市場」を運営する会社として創業した。「楽天市場」は長らくメイン事業だったが、業容を拡大する中で「楽天市場」はグループ内の一つの中核事業という立ち位置になっている。
営業利益では18年1―6月期(中間期)時点で「楽天市場」事業を「FinTech」事業が追い抜いた(図参照)。名実ともに「楽天市場」は楽天のメイン事業ではなく、中核事業の一つという立ち位置になっている。
楽天は会員基盤を生かし、グループサービスの相互利用を促す「楽天経済圏」という戦略を推進している。「楽天市場」で培った会員基盤を金融事業でより強固なものにしていく取り組みは事業戦略にかなったものであり、金融事業の拡大は「楽天市場」の成長にも追い風となる。金融事業の台頭は楽天にとっても、「楽天市場」の出店者にとっても歓迎すべきことであるのは間違いない。
ただ、楽天が業容を拡大することで、グループ内における「楽天市場」の存在感が徐々に薄れてきていることも事実だ。来春の組織変更でEC事業が子会社に移管され、組織的にも「楽天市場」が他の中核事業と同じ立ち位置となるわけだ。
■ネガティブな意見も
楽天市場に長年出店している、ある企業の経営者は、今回発表した組織変更に「寂しさ」を感じている。
「時代が変わったのだと思う。昔は三木谷社長と意見交換できる機会があったが、今後はそういうチャンスもなくなりそうで寂しい。店舗の声が上層部に届かなくなることを懸念している」と話す。
あるECコンサルタントは「楽天はベンチャー精神がある企業だったが、いつからか大企業病に陥り、意思決定のスピードが遅くなった。組織変更はそこにメスを入れるための一手とも見てとれる」と分析する。
別のECコンサルタントは、今回の組織変更をネガティブに捉えている。
(続きは、「日本流通産業新聞」8月30日号で)
〈楽天、21年目の変化〉 組織改革は”攻め”か”守り”か/「楽天市場」の立ち位置に懸念の声も
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