今夏、中国の複数の地方政府が「越境ECのさらなる発展を後押しする」旨の発表を行った。7月に発表を行ったのは上海市と山東省。深圳市も22年11月に同趣旨のを発表を行っている。これらの方針は、「中国企業の海外進出」と「海外企業の中国市場進出」の両方を支援する内容を含むのが特徴。今回の発表は、日本企業にとって、「千載一遇の好機」となるか、それとも「黒船並みの脅威」と捉えるべきか。
■地方政府が越境EC支援を表明
上海市商務委員会と上海税関、上海市税務局、中国人民銀行上海支店、国家外貨管理局上海市分局は7月20日、「上海市越境ECの質の高い発展を促進する行動方案」を発表した。上海市だけでなく、山東省も7月21日に、越境ECの発展促進の方針を発表している。
こうした発表について、「中国政府の全国的な方針として、『越境EC』を含む貿易の振興を推し進めることを表明したものだ」と、中国EC市場に詳しい、Nint(ニント、本社東京都)のNint上海・経営戦略担当を務める堀井良威氏は読み解く。
これらの方針は、「日本などの海外企業の中国進出を支援する」内容と、「中国国内の越境EC企業が、中国国外の消費者に商品を販売することを支援する」内容の両方を含んでいる。
中国に向けた越境ECの市場はこれまで破竹の勢いで成長を続けてきた。ただ、ここ1~2年は市場拡大のスピードが減速しており、踊り場感が漂っている。なぜ今、発表されたのだろうか。
今回の発表について、中国越境ECに詳しい、東海大学客員教授の小嵜秀信氏は「中国市場は、景気後退感が強い。今の中国の情勢を鑑みると、今後は輸出、特に、中国から海外に向けた越境ECにおいて活路を見出そうとしているのではないか」と分析している。
■日本企業にとって好機?
前出のNint上海・堀井氏は、「既に中国に進出している日本企業や、今後中国に進出する日本企業にとっては、『好機』となるだろう」と語る。
例えば、上海市が発表した方案では、25年までの目標として、世界的に影響力を持つ越境EC企業やプラットフォームを集積させ、運営・物流・マーケティング・決済・融資などの専門サービス機構を育成・誘致し、強化していくことを掲げている。越境ECに関連する公共サービスの質を向上させ、通関・税務・外国為替などの管理を最適化し、上海に世界トップクラスの越境ECビジネス環境を構築するとしている。
「既に中国進出済みの日本企業にとっては、今回の政策により、税制や日本への返品問題の課題がクリアされる部分がある。そのため、より事業推進がしやすくなり、コスト削減にもつながる」としている。「中国に進出するに当たって、商品の配送・越境倉庫・決済・税制・人材不足など、日本企業側にとって、多くの参入障壁・障害があった。中国市場はこれまで、日本の中小企業にとって近くて遠い国だっただろう。今回の政策が実現すれば、インフラなどの準備の費用や時間の削減を図ることができ、事業を推進しやすくなると考えられる」(同)と言う。
■黒船来たる?
一方で、日本市場のみで戦っている日本企業にとっては「黒船並みの脅威」ともなりえる。
堀井氏は「今後、中国政府に後押しされた中国企業が、日本市場に続々と進出してくると考えられる。そうなると、日本に進出してきた中国ブランドと、中国市場ではなく、日本市場で戦わなければならなくなる」と指摘する。
(続きは、「日本流通産業新聞」8月31日号で)
中国が越境EC推進を発表/日本にとって「脅威」か「好機」か?(2023年8月31日号)
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