2022年 有力EC事業者・有識者が市場を予測
事業者に聞く!【2022年 事業戦略】
バルクオム
CEO 野口卓也 氏
コロナ禍でも増収増益
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男性向け化粧品のECと卸売りを手掛けるバルクオムが、堅調な売上成長を続けている。22年の通販・EC業界については、法規制や広告費用の高騰などを踏まえて、「通販・EC専業の企業は厳しい状況になるのではないか」と分析する。野口卓也CEOに、21年の取り組みの振り返りや22年の予想を聞いた。
─21年を振り返って、手応えは。
21年は次なる高成長を見据えて準備した年となった。一例を挙げると、21年2月に米国のアマゾンに出品。米国では利用者やリピーターが少しずつ積み上がっており、さらなるシェア拡大に向けた兆しが見えてきた。インフルエンサーとのタイアップにも一定の手応えを感じている。21年9月期は増収増益となった。今期(22年9月期)も同様に、さらなる成長を目指す。
─20年から進出しているフランスと英国市場は。
日本以上に、コロナ禍の影響によるロックダウンがひんぱんだったこともあり、数字(売り上げ)は立ち上がっていない。情勢を見ながら、小売りの販売強化に努めていく。
─男性向け美容EC市場の展望は。
例年通り、さらなる市場成長に期待している。将来的にコロナ禍が収束すれば、外出の機会が増えて、メークアップラインの引き合い増加にもつながるかもしれない。当社が21年8月から販売しているメークアップラインについて、当社が提供する無料肌診断システム「COLOR FINDER(カラーファインダー)」を利用した人のうち約20%が商品を購入している。診断後に離脱してしまう人が想像よりも少なく、CVRが高い印象で手応えを得ている。コロナ禍の状況次第だが、男性向け美容の中でも、22年のメークの市場は21年よりも増える可能性はあるとみている。
─通販・EC業界全体に向けての期待感はあるか。
22年はかなり厳しい年になるのではないかと思っている。これまでのコロナ禍では、外出自粛の影響で、自家需要に消費が向かっていた。22年は、消費がまた分散されていくのではないか。また、21年は、薬機法など法改正の動きが大きかった。さらに、法律関係だけにとどまらず、各媒体単位でのレギュレーションも強化の動きが目立っている。ウェブの広告費も高騰している。
客観的な目線でいうと、通販・EC専業の企業は厳しい状況になると思う。各社とも独自の取り組みで、どのように工夫して乗り切るかという勝負の一年になると思う。
アサヒグループ食品
コンシューマ事業本部 アサヒカルピス健康通販部 部長 岩崎琢也 氏
社会貢献するブランドへ
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「カルピス健康通販」というブランドでサプリメントの通販・ECを展開しているアサヒグループ食品(本社東京都)では、「社会課題の解決」につながるブランド展開を進めている。アサヒグループ食品コンシューマ事業本部・アサヒカルピス健康通販部の岩崎琢也部長に、アサヒグループ食品のブランド展開の狙いと、「22年のキーワード」について聞いた。
アサヒカルピスウエルネスはこれまで、乳酸菌の研究をベースとして、プロダクトアウト的に、お客さまに商品を提案してきた。今は、プロダクトアウトのやり方では売れなくなってきていると感じる。健康食品は機能性表示食品が主流となり、商品がコモディティー化してきている。
今後は、お客さまにとっての価値を最優先し、社会課題の解決につながるブランドとして展開していかなければならない。商品だけでなく、サービスを販売し始めたり、リアルイベントを開催したりといった取り組みもありえるかもしれない。
お客さまに価値観を提供することが必要だ。
「免疫」を訴求する機能性表示食品の開発には、アサヒグループ全社を挙げて取り組んでいる。さまざまなエビデンスデータを用意し、「免疫」の機能性表示食品の届け出が受理されるよう、チャレンジしている。「免疫」の表示が可能になれば、まさにお客さまの課題解決や社会貢献につながると考えている。
22年のキーワードとして挙げられた「メタバース」には、個人的に非常に興味がある。仮想空間だからこそできる、既存のお客さまとのコミュニケーションなども、ぜひ検討してみたい。
当社のお客さまのボリューム層は50~80代なので、こういった層に「メタバース」を使った施策が刺さるとは思わないが、30~40代の女性顧客には違和感なくアプローチできそうだ。
「OMO」については、実店舗を持たない当社も、展開を検討する可能性があると考えている。ポップアップストアのような形で、リアルの接点を作っていきたい。郵便局や病院といった、当社のメイン顧客と関係が深そうな場でのリアル展開を考えたい。
物流コストの値上げにも、危機感を持っている。これまでは、いかに安い配送コストでお客さまに商品を届けるかを重視してきた。ただ、お客さまに”価値観”を提供するのだということを考えたとき、それだけでは足りないと感じている。ある程度コストが掛かったとしても、商品を手にするお客さまに、感動できる”体験”を届けることが必要だ。
ただ届くだけでなく、人のぬくもりが感じられ、健康と笑顔をサポートできるサービス提供をしたいと考えている。
cotta
社長 黒須綾希子 氏
手作りキットで購入意欲かき立てる
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菓子材料を販売するcotta(コッタ)の21年9月期の売上高は、前期比17.8%増の92億5800万円だった。当初の想定は96億円を掲げていたため、若干計画を下回って着地した。それでもイベントに合わせて、菓子が作れる手作りキットの販売を通じて増収につなげた。黒須綾希子社長に、22年の市場予測について聞いた。
22年の菓子材料業界は、新型コロナウイルスの感染拡大に左右されると考えている。当社も巣ごもり需要が高かった20年10月~21年3月(上半期)の売上高は、前年同期比56.0%増で推移した。
だが、緊急事態宣言が解除されて、街に繰り出す人が増えると、菓子材料という商品性質上、売り上げを伸ばすことは厳しかった。21年4~9月(下半期)の売上高は、前年同期比を多少下回る結果だった。
そんな中でも22年は継続して、イベントに合わせて菓子を簡単に作れる手作りキットの開発・販売に力を入れなくてはいけないと感じている。
21年の下半期は在宅時間が減少傾向になるにつれて、自宅で菓子を作ろうと考えた人が少なくなっていった。どうすれば今作ってみようと思ってもらえるのかを試行錯誤した。
その結果、世の中のイベントに合わせて、その時期に流行している菓子を簡単に作れる手作りキットを販売して、一般消費者の菓子を作る意欲をかき立てることを画策した。
実際に21年3月のひな祭りには、桜餅を作れる手作りキットを開発。同5月のこどもの日には、その時期に人気だったわらび餅を簡単に作れる手作りキットを開発したりした。
コロナ禍ではSNS映えの色彩豊かな、かわいい菓子というよりも、父・母・子と、家族全員で食べられる菓子が人気の傾向にある。女の子に人気が出るような派手な色のわらび餅ではなく、抹茶味や、きな粉と黒蜜をかけて楽しめるシンプルなわらび餅を作れる手作りキットの開発に注力した。
下半期の売上高は、前年同期を下回ったが、この取り組みをしなければ、もっと厳しい結果が待っていたと感じている。22年も昨年同様、桜餅、わらび餅、かしわ餅を作れる手作りキットを販売して、学生からの購入につなげていきたい。
コロナ禍の点でいうと原材料の値上げも22年は頭を悩ます問題になりそうだ。現在は小麦粉や容器など、多くの原材料の仕入れ価格が高騰している。
当社は値上げをせずに従来通りの販売価格で提供しており、今後もこの方針は変わらない。当社の利益を少なくすることで、顧客に従来通りの販売価格で商品を提供していく。
他社が値上げを選択する中、当社が値上げを行わないことで、「コッタは値上げをしない企業だ」と広まれば、それも一種の広告宣伝だと考えている。広告宣伝費をかけずとも、口コミで広まれば、仕入れ価格高騰分の負担を補えるとみている。
ワークマン
EC事業部部長代理 加藤健 氏
アンバサダー生かし、新しい販売手法に挑戦
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作業服・安全靴を販売するワークマンは近年、機能性が高いアイテムを取り扱うブランドとして、アウトドアやレジャーが好きな消費者から熱い支持を集めている。新たな領域で顧客を獲得できている背景には、熱狂的なファンの発信力を借り、自社の魅力を広めていくアンバサダー制度や、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の効果的な活用がある。EC事業部の加藤健部長代理と22年の戦略について聞いた。
ワークマンの愛用者でSNSなどの発信をしていただいている方にお声掛けし、アンバサダーとして無償で協力していただいている。商品情報や商品を提供して発信していただいたり、商品開発に協力していただいたりしている。
さらに21年頭から、ビジュアルマーケティングツール「visumo(ビジュモ)」を導入し、インスタグラム(インスタ)に投稿されたユーザーコンテンツを、許諾をいただき、ECサイトに上げている。
UGCを経由したユーザーのコンバージョン率は、経由していないユーザーの約2倍になっている。UGCの効果は大きいと実感している。
アウトドアや釣り、バイクなどのジャンルに合った投稿を選別して掲載している。アンバサダーを見つけるきっかけになればという思いもある。
■店舗送客の新施策
21年秋には試験的にアンバサダーさんとキャンプ向けのキャリーバッグを共同開発し、ウェブ限定で販売して、受け取りは店舗のみという新しい取り組みを実施した。
当社としては高価格帯の商品で、新たな商材や販売手法への挑戦でもあった。不安な面もあったが、アンバサダーさんにユーチューブなどで発信してもらった効果もあり、発売日に計画数を完売できた。
22年2月から「ウェブ限定販売+店舗受取り限定」という販売手法に本格的に取り組む。アンバサダーさんと共同開発したキャンプ用品に加えて、店頭ではスペース的な限界で効果的に表現できていない、ジュニア向けアパレルやレディース向けアパレルなども販売する。
店頭受け取りにすることで、実店舗への送客や売り上げ貢献にもつながる。店頭でのついで買いも期待できると考えている。
当社としても新しい領域を広げる上で、売り場スペースの限界という課題があった。アンバサダーさんの力を借り、ECサイトという売り場を活用して、取り扱いアイテムを広げることができれば可能性が広がる。
ユナイテッドアローズ
執行役員CDO 藤原義昭 氏
OMO成功の鍵はコミュニケーション
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アパレル大手のユナイテッドアローズ(UA)は22年に、自社ECサイトやスマホアプリのリニューアルを控えている。その陣頭指揮を執る執行役員CDO(最高デジタル責任者)の藤原義昭氏に22年の展望を聞いた。
21年4月の着任後、22年の自社ECサイトやアプリのリニューアルプロジェクトの進行に一番注力した。同時にリサーチを強化し、お客さまの状況把握に努めた。
コロナ禍で実店舗での買い物を控えるお客さまは多かったが、それでもメインの顧客層では、実店舗で購入していただいたり、情報を得ていたりするお客さまが多いことが改めて分かった。社内でも実店舗は大切なメディアだと共有できている。
すぐには実店舗にお客さまが戻ってこないかもしれないが、ECのリニューアルやハウスカード会員組織のリニューアルなどを行い、より実店舗とECをともに利用していただけるようにしていきたい。
ECサイトのリニューアルでは、UX(顧客体験)を重視している。導線だけではなく、決済をスムーズにできるようにするなど、基本的なことからしっかりやる。
きれいな画像を掲載し、在庫も切れないようにする。ECだけでなく、MDやディストリビューション(流通)との連携をしっかり行い、組織が横串でコラボレーションできるようにしたい。
段階的に新しい機能も追加していく。突飛な機能を入れても、CVR(転換率)がすごく改善するわけではない。新しいソリューションもテストできるものはチャレンジし、早めに継続的に採用するかを判断することが重要だと考えている。
■顧客を知り、Wow提供
リサーチで見えてきたことがある。店舗で購入したお客さまがその後、ECで購入し、そのまま店舗に戻らずECで継続購入するとする。3回ぐらいECで購入していただいた後、離反に至る傾向がある。ECを利用していただいた後にもう一度、お店で購入していただけるように、UXを崩さずできるかが重要だ。
そのためには最適なタイミングで最適な情報をお客さまに提供することが必要だと思う。お客さまのアンケートや行動データをもとに、「Wow!(驚きや喜び)」を提供したい。新サイトやアプリはその基盤になる。
高島屋
クロスメディア事業部事業部長 郡一哉 氏 EC事業部事業部長 西名香織 氏
日常使いの利用を加速
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高島屋は、コロナ禍による需要拡大を受けた20年に続き、通販とECの売り上げを堅調に伸ばしている。通販は、店舗よりも買い求めやすい価格帯の商品展開を強化。ハレの日だけにとどまらず、日常使いの利用を加速している。クロスメディア事業部の郡一哉事業部長と、EC事業部の西名香織事業部長に、21年の取り組みや22年の展望を聞いた。
─21年はコロナ禍2年目となった。通販・ECの状況は。
西名 コロナ禍の初年度の20年に比べると伸長率は鈍化したが、堅調に積み上げられた。21年3―8月期(中間期)におけるEC売上高は、前年同期比3.3%増の136億円だった。足元のEC売上高は、前期比1桁成長で推移。20年に比べ、新規顧客の獲得がスローペースになった。
─21年8月に「高島屋オンラインストア」を刷新した。手応えは。
西名 足元の売り上げは少し停滞しているが、リニューアル直後の売り上げは堅調に推移した。21年の9月度と10月度の売上高は、前年同月比20%超となった。刷新でスマホからの「高島屋オンラインストア」の使いやすさを重視したことが大きい。購入単価も上がっている。
─自家需要や日常使いのEC利用はどうか。
西名 自家需要は20年に続いて伸びており、売り上げは前年比20%で推移している。この流れは、リニューアル前から促進に努めてきた。効果が現れ始めており、この流れを強化していきたい。
─21年、カタログ通販はどうだったか。
郡 今期、これまでの売り上げは前年比約7%増で推移している。これは、19年と比較すると約30%増となっている。20年は大きく伸長したが、21年も落ちることなく伸ばすことができている。
─クロスメディア事業部がマーケティングで重視していくことは。
郡 70代以上の夫婦の日常生活に寄り添っていけるような品揃えを作っていくこと。衣料カタログ「タカシマヤスタイル・プリュ」でも、百貨店ブランドでありつつ、ほどよい価格で手に取りやすいラインアップを重視。引き合いは伸びている。今後も、ハレの日だけにとどまらず、日常使いでも高島屋の利用を拡大させていく。
ルームクリップ
代表取締役 高重正彦 氏
消費者が能動的になる1年
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家具や家電、インテリアなどの住生活領域に関する写真の投稿や閲覧ができるプラットフォ―ム「ルームクリップ」を運営するルームクリップ(本社東京都)の高重正彦社長は、22年度のインテリアEC業界について、「パーソナライズ」「UI/UX」「安心」の三つが重要になると予測している。コロナ禍で消費者のライフスタイルは変化。住生活に関する消費者の意識は今後、さらに能動的になっていくとみる。その上で消費者の生活にフィットする商材や提案力が求められると話した。
住生活領域は、22年度も活況であることは間違いない。今年はコロナ禍の生活も3年目。消費者が住生活の商材に対して能動的に動く年になると予想している。
これは、直近2年間で、消費者のライフスタイルが公私とも大きく変化したことが理由に挙げられる。こうした変化に、売り手は単にサイズや価格、使用シーンだけで訴求するのではなく、さらに一歩踏み込んだ暮らしにフィットする商材や見せ方が、今年はより重要になると分析している。住生活をさらに良くしようとする文化が根付く元年でもあるため、業界全体で盛り上げていく必要があると思っている。
より良い住生活の提案には、パーソナライズの訴求が挙げられる。パーソナライズは、EC企業の得意領域だろう。リアル店舗では実施しにくい部分でもあるため、EC企業には優位性がある。パーソナライズ兼D2Cという形でEC展開する会社が、今後増えていくと予想している。
一方で、商材だけを軸にして考えていく展開とは異なる。より良い住生活を望むユーザーにフィットした展開が必要になるため、提案の中には、当然、サイトのUIやUXをしっかりと構築していくことが含まれている。つまりは、ECサイトの作り方や在り方も改めて見直す必要があるといえる。
UIやUXは、当社も常に改善して最適化している。しかし、最適化させるだけでは、ライフスタイルを変えようとしている消費者の要望を叶えられないとも考えている。
当社が運営するルームクリップのサイト内では、実在する住環境の写真が投稿されている。すでに存在する空間や商材があることで、ニーズを拾うだけでなく、購入を決定付ける安心感を与えることにもつながるとみているからだ。
インテリア商材は、他の商材と比べて単価は安くない。ネットで高単価商材を買うことに不安を持つ消費者はいまだに多い。顔が見えない買い物の不安を払拭するようなコンテンツ作りも当然求められるだろう。
タンスのゲン
常務取締役 橋爪裕和 氏
自社サイト軸に顧客接点強化
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家具・家電EC大手のタンスのゲン(本社福岡県、橋爪福寿代表)の業績が好調だ。21年7月期の売上高は、前期比20.0%増の約227億円と躍進。今期(22年7月期)の売上高は255億円を見据える。EC事業開始から20周年の節目となる今年は、機能拡張を続ける自社サイトを軸にアプリやSNSを活用したコンテンツ配信も強化していく計画だ。
コロナ禍以降から続いた巣ごもり需要が落ち着きを見せつつも、ここ数年で取り扱いを増やした季節家電などを中心に今期も増収が続いている。今期は売上高255億円を目標に設定している。
主力である家具・インテリアに加え、アウトドア用品や家電といった分野でもシェアを確保できるよう、商品力を強化していく。
「顧客第一主義」を掲げる当社にとって、お客さまと最も近い距離でコミュニケーションができる「本店」(自社サイト)のサービス強化が注力点となる。その中で重要となるのが20年10月に提供開始した「本店」スマホアプリの活用だ。
情報発信やクーポン配布など、スマホを起点に「本店」を利用する機会を創出していく。
実店舗を持たない当社にとって、認知の拡大は大きな課題だ。アプリやSNSでの発信を通じて、「タンスのゲン」というショップ自体のファン層も開拓していきたい。
著名人とのコラボレーションや地元の企業・学校との連携による動画配信も、より積極的に実施していく計画だ。
アウトドア系のユーチューバーなど、特定の分野の専門家との協業による商品開発も大きな反響を得ている。
こうしたインフルエンサーとの連携強化に向け、20年11月には「タンスのゲン公式アンバサダー」という仕組みも導入した。アンバサダーの専門知識を生かした商品開発のみならず、アンバサダーをきっかけに「タンスのゲン」を知ってもらえるような動画コンテンツなども発信していきたい。
■今夏にEC20周年
当社は、今年の7月でネット通販を開始して20周年を迎える。国内のネット通販が黎明(れいめい)期に始めた私どもの事業は、当初より手探りで試行錯誤の連続だった。
タンスのゲンの成長は、お客さまやステークホルダーさまの支援の賜物であることを忘れずに次の10年、20年に向けて、さらなる成長を図るべく、より一層のサービス・商品・DXの進化を図っていく。
今年は、ネット通販の市場拡大が加速している反面、原材料の高騰や輸送の問題などさまざまな課題を抱えてのスタートとなっている。
家具・インテリアのネット通販事業の先駆者として、柔軟な発想で諸問題に取り組み、今後もお客さまの生活が少しでも豊かになるような商品・サービスの開発に努めていく。
ストリーム
代表取締役社長 齊藤勝久 氏
SDGs背景にリユース事業拡大
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ストリームの21年2―10月期(第3四半期)のEC売上高は、前年同期比3.8%増の197億2800万円となった。巣ごもり消費が落ち着きを見せる中、通期業績も増収で着地する見通しだ。22年はさらなる成長を見据え、家電レンタルや中古家電販売など、家電ECを基盤に事業領域を拡大していく計画だ。
今期(22年1月期)は増収減益という状況で進んでいる。家電市場全体では、巣ごもり消費や定額給付金で活況となった20年からの反動によるところが大きい。
市況が悪い中、増収を維持できている現状には確かな手応えを得ている。通期の連結業績についても、予想通り増収で着地する見通しだ。
今年も基本的には現在の方針を踏襲していく。厳しい環境の中でEC運用を通じてつかんだ「こつ」を、ブラッシュアップしていく1年となるだろう。今期同様に増収を継続、そして再び増益に転じていくと考えている。
■BtoBレンタルも
近年注力しているのがリユース家電を活用したサービスだ。その背景には、SDGs(持続可能な開発目標)との関連も大きい。消費者の課題意識が高まれば当然市場も広がっていくだろう。企業として取り組みを強化していくとともに、社会に求められるサービスを強化していく。
家電レンタルサービス「Rentoco(レントコ)」は20年4月の開始後、着実にサービス規模を広げている。
今後、他社が展開するレンタルサービスと家電分野での提携なども視野に入れており、BtoBの活用もさらに進んでいくと考えている。ワクチン接種会場で一定期間必要な空気清浄機の提供など、当初想定していなかった需要も生まれている。
21年12月には、中古家電を販売する新サービス「ちゅうとこ」を自社ECサイト内で開始した。中古家電は今後も市場の拡大を予測しており、右肩上がりでシェアを拡大していけると考えている。サービス強化に向け「ちゅうとこ」名義でのモール出店なども検討していく。
加えて強化している分野がライブコマースだ。テレビ通販のマーケットが一定規模移行していくという想定のもと準備を進めている。
グループ会社であるエックスワンのスタジオなど、当社はライブコマースを実施する上での基盤もある。将来的には自社の配信のみならず、フォーマットの外部提供なども視野に入れている。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈資材調達難〉
shizai
サプライチェーン責任者 岡本大祐氏 氏
商品ジャンルに関わらず、資材の値上げが予想
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EC向けの梱包資材について、コスト削減につながる提案を行うshizai(シザイ、本社東京都、鈴木暢之社長)のサプライチェーン責任者・岡本大祐氏は、「22年は商品ジャンルに関わらず、広範囲で資材の値上げが予想される」と話す。
22年は、「中国から調達する原料」と「ダンボール」の値上げが予想される。
資材の製造工場が国内にある場合でも、製造する資材の「原料」は、中国から調達しているというケースが少なくない。思ったより広い範囲で影響を受ける。
中国の原料費の値上げの主な原因は、「原油価格」と「中国の人件費」の高騰だ。今後は為替の影響も考えられる。
当社でヒアリングを行ったところ、国内サプライヤーは、「21年10~11月頃から、中国の取引先から『価格を上げたい』などと交渉を持ちかけられるようになった」「来年から価格が上がる可能性がある」などと話していた。
原料調達に当たっては、日本が求める価格・品質に応えられるような設備投資が必要となる。そのため、中国と同等の、他国の調達先に、すぐにシフトするといったことも、現状は困難だと話す国内企業も多い。中国側の値上げ幅にもよるが、アパレルや化粧品、サプリメントなど、商品のジャンルに関係なく、資材の値上げにつながると考えられる。
「ダンボール」も値上げとなる可能性が高い。ダンボール業界では、何年かに1度のスパンで、日本の業界最大手企業が値上げに踏み切り、各社が追随する動きが見られる。21年末に、ダンボールの原紙メーカーである最大手企業が値上げを発表した。
コロナの影響や、中国の目覚ましい成長、世界的な原油高など、外的要因が多く、確実な予測や対策は難しい。
当社ではそのような課題に対し、資材のコストカットを実現しながら、資材のデザインなどを工夫することで、消費者の「購買体験」の質を維持できるような提案も行っている。
いろは
経営コンサルタント 竹内謙礼 氏
価格高騰でECは競争激化
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さまざまな商品の原材料や資材価格が高騰している。経営コンサルタントで、多くのネットショップのコンサルティングを手掛ける竹内謙礼氏は、原料や資材価格の高騰について、「22年夏ごろに落ち着くのでは」と予測する。ただ、「『SDGsの浸透』『人件費の高騰』『IT人材の取り合い』などさまざまな理由から、ECの商品の価格競争は激化し、大手と一部のブランディングのうまい企業が勝つのではないか」と話している。
半導体や原油といった、商品の原料や資材価格が高騰している。コロナの収束に伴い、世界の一部の国で需要が回復しつつあるからだ。米中貿易摩擦や、現場に人材が不足しているのも、価格高騰の要因だろう。
原油不足については、先進国が多い北半球で冬が終わるにつれて、多少回復するのではないか。コロナも、22年夏ごろには収束するのではないかとみている。夏ごろには、高騰した原料・資材にかわる、別の安い原料・資材が、さまざまな業界で現れる可能性がある。
ただ、資材価格が戻ってきても、物によっては、実際にかかる・原料・資材のコストが下がらない可能性もある。価格は下がらないことを覚悟して、経営戦略を立てるべきだ。
国内のEC市場は、商品の価格競争が激化するとみている。国内のEC市場の22年の成長率は、コロナ前に戻るとする試算がある。一方で、参入企業は増えた。今後は、広告費など、体力がある大手が顧客を奪っていく時代になるのではないか。
IT人材の奪い合いも激化する。ECを強化した大手が、IT人材の採用を強化している。地方のネットショップと、大手企業のEC部門との間で、さらなる人材格差が生まれるだろう。
今後は、SDGsの考え方が広がるとともに、海外の工場の人件費も上がっていくだろう。これまでのネットショップの商品開発は、「中国などの海外で作り、日本で売る」のが一般的だった。逆に日本で作った方が安く済むようになるかもしれない。
22年は、ブランディングがうまい一部の企業が勝つ一年になるだろう。価格競争に左右されない商品を持ち、リピーターやファンを作り、自社ECサイトに誘導できる「D2C」を行うのが、22年の唯一の突破口だ。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈OMO〉
さくら
代表 仲庭拓也 氏
生き残りをかけた4つの戦略
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ECコンサルタントとして活躍している合同会社さくらの仲庭拓也代表は、EC企業10社以上でEC事業の責任者を務めている。大手小売企業や有名ブランドも支援しており、OMO(ネットとリアルの融合)の推進もサポートしている。仲庭氏は、「オンラインとオフライン両方を利用している顧客は、片方を利用している顧客よりもLTVで4倍以上の差が出る事例もある」と話す。仲庭氏にOMO戦略で必要なポイントを聞いた。
OMOの一環として、BI(ビジネスインテリジェンス)やMA(マーケティング・オートメーション)ツールの導入が加速度的に進んでいる。オンラインとオフラインの購買・顧客情報をBIツールによりRFM分析、それらの情報をもとにMAツールでメール、LINE、SMSなどで個々の顧客に情報を配信する仕組みを導入する企業が増えている。
送付内容はAIで自動的に購買データから制作し、送付先についても、購入しやすい客層をAIが自動的に判断してセグメントを作成するシステムもできている。
ただ、現実は二つのOMO導入障壁がある。一つには、コロナ禍において、オフラインで購入しにくいため、オンラインの利用者が増えたように、オンラインの利用者を増やすためには、利用する必然性が必要になる。
そのために、企業側の努力として、ターゲット層に最適化された接点をできる限り作り出すことが求められる。オンラインを利用する利点(オンライン限定商品・販促など)を作り、一度でもオンラインで購入することが良い体験であることを認識していただくことが必要である。
二つ目の障壁は、実店舗からECへの送客の難しさだ。その理由は、(1)実店舗の売り上げが高く、ECは一つの店舗としか位置付けられていない(2)実店舗スタッフのEC送客に対する抵抗感(3)実店舗のPOSシステムとECシステムの連携が困難─などがある。
OMO推進のためには、重要性を認識したメンバーが社内を説得して、会社の方針として特にオンラインの重要性を唱える必要がある。
OMOを潤滑に進めるために(1)顧客に多方面でつながり、タッチしていく仕組み(複数接点)(2)顧客が望んだときに望んだ情報や商品を必要な分だけ提供できる仕組み(顧客に親切な仕組み)(3)オンラインを使いたくなる仕組み(オンラインを利用する必然性)(4)社内共通認識(「OMO会社方針」を作る)─の四つの戦略が必要となる。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈越境EC〉
フューチャー
社長 小柳みゆ 氏
急成長プラットフォームで商機をつかむ
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中国越境ECへの進出を一貫支援しているフューチャー(本社東京都)の小柳みゆ社長は、「22年は、急成長する動画プラットフォームへの早期進出、SNSの活用を推奨している」と言う。「激変する中国の現地事情を的確に把握した上で、素早い対応で、適切な進出先の見極めを行うことが重要」と話す。
中国EC進出を検討する企業からは、「W11(独身の日)のような中国ECの大型ショッピングイベントに参戦したい」という問い合わせが寄せられることが多い。中国ECでは、11月11日のW11以外に、3月8日の「女王節」、6月18日の「618」、12月12日の「W12」など、1年中何らかのイベントが開催されている。当社でもイベントに参戦し支援を行っている。
ただ、現在中国の大手ECプラットフォームはレッドオーシャン化しているため、進出には注意が必要だ。今年も競争が激化するだろう。まずは既存店舗に出品しテストマーケティングを行うところからスタートすることを推奨している。
今年は動画プラットフォームの展開がさらに過熱していくだろう。中国版TikTok(ティックトック)である「抖音(ドウイン)」を筆頭に、香港市場上場企業が運営する「快手(クワイショウ)」なども急伸している。かつてのECプラットフォームと同様、成熟前の成長期に参入することで商機を得られると考えている。
商品の魅力や物語を消費者に伝える接点を増やすため、中国の主要SNSの活用も欠かせないだろう。
中国ECのトレンドやルールは、凄まじいスピードで変化している。近年中国では、IT企業の規制強化に注目が集まっている。一連の規制強化によって、これからは、ネット上での「個人情報保護」の取り扱いの基準などが、日本に近付いていくと見ている。国内企業が規制を過度に恐れる必要はないが、都度臨機応変に対応していくことが重要だろう。
BEENOS
CEO 直井聖太 氏
”物流”懸念継続もチャンスは依然拡大
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国内最大級の購入代行サービス「Buyee(バイイー)」などを展開するBEENOS(ビーノス)の直井聖太CEOに、越境EC市場の21年の振り返りと、22年以降の展望を聞いた。
21年の越境EC市場は、20年に引き続き非常に伸びた。中国以外の国への取引が急拡大したことを考えると、”新しい越境EC”が始まった年でもあった。
一方、21年後半には再び物流面の混乱も生じた。国際スピード郵便(EMS)がエリアによって再開したので、物流が復活してきているかのように思う人もいるだろうが、航空便の数が減り、輸送できる荷物の量は減ったままだ。
逆にEMSが戻った分、他のサービスで送れるキャパシティーは減っている。配送コストも高まっている。物流面の課題は22年に解消していく可能性はあるものの、依然懸念材料であることは変わらない。
コロナの予測はできないが、22年以降も世界のEC市場が拡大していくのは間違いない。越境EC市場も中国向けやコロナ禍に広がった欧米圏だけでなく、他のエリア向けにも広がっていくだろう。多面的にマーケティングを広げていきつつ、特化する国があればしっかりとマーケティングを行うことが得策だ。
マーケティングでは”検索”に対応するのが定石だが、その状況も変わりつつある。SNSやインフルエンサーの影響力が高まり、情報発信も消費者主導に変わってきている。メディアが多様化して難しくなっていると思う人もいるかもしれないが、私は逆に考えている。大資本ではなくても、やり方次第でチャンスが広がっている。
マーケットの状況は複雑かもしれないし、コロナで既成概念も変わっていっているが、”難しく考えすぎない”というのが22年のポイントだと思う。コロナで変化は加速しているが、なるべくして流れる方向に進むスピードが速まっていると考えれば、物事はシンプルになる。以前は”絶対こうなるはずなのになかなか変わらない”ということに難しさがあった。
よりシンプルに考えていけば、やるべきことが見えてくると感じている。国は異なってもインターネットは変わらない。文化は違うので理解することは必要だが、相手を理解することは、本来、日本が得意なことだといえる。
キレイコム
社長 上田直之 氏
コミュニティー活用広がる
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アジア圏の越境ECは、引き続き大きな盛り上がりを見せている。中国への越境EC支援などを手掛けるキレイコム(本社東京都)の上田直之社長は、モールでの販売からコミュニティーを活用した越境ECへの移行が進んでいく1年になると予測する。
22年もアジアでの越境ECは活発な動きを見せるだろう。とはいえ、その内情には変化が生じつつある。
最大の市場である中国では、ここ数年市場を盛り上げてきたモールでの大型セールイベントが以前の勢いを失いつつある。消費者もメーカーも必要以上の値下げ競争や大量消費に疲弊してきているという印象だ。
中国での越境ECの難易度は年々上がってきていることを肌で感じている。競争の激しさはもちろんだが、ECが生活に浸透し、中国の消費者の目が肥えてきていることもその要因だろう。
国内で販売するものをただ流用するのではなく、商品の中身からパッケージ、販売手法に至るまであらゆる点で現地の消費者に向き合い、最適化した商品を発信する必要がある。
こうした背景から、今年はオンライン上のコミュニティーを活用した越境ECがより進んでいくと考えている。その中でも注目すべきは、中国最大のメッセージアプリ「WeChat(ウィーチャット)」だ。
ミニアプリや「社群(シャグン)」というグループコミュニティー内で消費者と直接つながり、販売や市場調査を行える「WeChat」は国内メーカーでも着々と成功実績が積み上がっている。
中国では、定期通販という消費スタイルがあまり浸透していない。「WeChat」の活用により、こうした販売手法もより定着していくのではないかと考えている。
21年は政府による巨大IT企業への規制も表面化したが、現状「WeChat」への影響は出ていない。
今年はアジア各国で大々的な展示会やイベントも行われ、日本企業の参入も進むことが予測される。特にベトナムを筆頭とした東南アジア各国には大きなポテンシャルを感じている。
市場として明確な枠組みができる前に商品を投下することで、まだまだ先行者利益を得ることができるだろう。もちろんその際には現地の消費者の需要を見定めた商品企画が必須となる。
ワサビ
代表 大久保裕史 氏
環境整備進み挑戦が容易に
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海外モール対応のEC管理システムを開発するワサビ(本社大阪府)の大久保裕史代表は、システムなど運用面の進化が進み越境ECへの参加がより容易になっていくと予測。成功には一歩目となるアクションが何よりも重要だと指摘する。
越境ECによる商機は引き続き広がっていくだろう。コロナ禍の影響もあり、ここ数年は食品ECの販売も伸びている。
越境ECという言葉が定着して長い時間が過ぎた。だが、中長期にかけて成功を収めている事業者はまだまだ少ないという見立てだ。ここ数年は、日本の商品やブランドが持つポテンシャルを市場で生かせていないことにもどかしさも感じている。
こうした状況の要因はシステム面の複雑さに問題があった。言語、配送、販促とあらゆる面で煩雑なオペレーションが求められ、リスクを恐れる企業の参入が進んでこなかった印象だ。
しかし、近年はシステム面も整備され、事業を開始するためのハードルも格段に下がっている。サイトや商品の自動言語変換サービスなども今後より活用が進んでいくだろう。
こうした状況の中、事業者に求めたいのは何よりも「アクション」だ。一度、海外のユーザーに向け現地の言葉で自社の商品を発信するという体験をするかどうかで、越境ECに対する感度や熱量も変わっていくだろう。国内EC同様に、お客さんの前に商品を出すという行為を通じて得られるものは大きいはずだ。
米国の「Wish(ウィッシュ)」など、新興モールもEC市場で存在感を増している。こうしたモールは低価格の追求や特定の商品カテゴリーへの特化といった独自性を打ち出し、ユーザーからの支持を集めている。
ニッチな商材であっても、その魅力を世界中のユーザーに届けられる土壌が構築されており、出店先の選択肢も広がっている。既存モールで正攻法での戦いが難しいような中小企業にも活路があるはずだ。
モール側の環境整備もあり、越境ECの黎明(れいめい)期と比較して決済や物流周りも大きく進歩した。かつて越境ECで成果を上げられなかったような企業の再チャレンジも増えていくだろう。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈メタバース〉
〈メタバース〉一般社団法人 ジャパンEコマースコンサルタント協会
代表理事 川連一豊 氏
22年はメタバースEC元年
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有力ECコンサルタントが集まるジャパンEコマースコンサルタント協会(JECCICA)の川連一豊代表理事に、「メタバース」のEC市場への影響を聞いた。川連氏は「22年はメタバースEC元年になる」と話す。
メタバースを「セカンドライフと同じ」と思う人も多いだろう。しかしながら、セカンドライフとは大きく異なっている点が二つある。
一つは、このコロナ禍でリモート生活がメインの新しい生活様式になっている点だ。Zoomのリモートミーティングに慣れている方は、自分の背景を変えたり、顔や姿をアバターにしている。
若い方を中心に、「どうぶつの森」や「PUBG」などのゲーム内で友達や仲間とコミュニケーションしているのは、すでにメタバース体験をしていると言っても過言ではない。
もう一つの要因は、VR(視覚現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といったテクノロジーに加え、ブロックチェーンやNFT(非代替性トークン)の広がりだ。これまでのデジタル空間での出来事が、ブロックチェーンとNFTによってリアルな経済活動になり始めている。
これまでのデジタル空間で行っている出来事は、リアルでの物販やEC物販の経済に多少はあったとしても、ほぼ影響がないように思われていた。
しかし、メタバースにブロックチェーンとNFTが組み合わされることで、デジタル空間の経済活動がリアルやECにも明らかに影響してくるだろうと考えられる。デジタル空間だけどリアルになりつつあるのだ。
考えてみてほしい。「あつまれどうぶつの森」で遊んでいる若者やAR技術の「ポケモンGO」でポケモンを集めている方は、もうほぼデジタル空間にいるのだ。ここにブロックチェーンとNFTの技術が入ったらどうなるだろうか。
22年はメタバースEC元年になるのは間違いない。ユーザーに寄り添った新しい考えを持った企業や、新サービス参入も十分に考えられる。EC業界にも衝撃が走る1年になる可能性は大きい。
HIKKY
代表 舟越靖 氏
「体験」前面に活用広がる
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21年は、オンライン上の仮想空間を指す「メタバース」という言葉が脚光を浴びた1年だった。VR(仮想現実)コンテンツの制作やメタバース上でのイベントを主催するHIKKY(ヒッキー、本社東京都)の舟越靖代表は、メタバースを活用したECの市場が大きく拡大する1年になると22年を予測する。
オンライン上に高度なコミュニケーションの場を構築できるのがメタバースの特徴だ。こうした空間で生まれる体験は次世代のインターネットの姿ともいわれている。
VR空間で訪れるユーザーに向け、商品やコンテンツを発信する仮想店舗などがECでの活用例となる。すでに先進的な企業を中心に運用が進んでおり、22年はこの動きがより加速していくものと考えている。メタバース上でのコンテンツ配信や広告掲載なども含め、市場規模も飛躍的な向上が予測される。
メタバースを活用したECでは、平面である既存のECサイトを立体にすることで、実店舗が持つような体験価値の付加が可能となる。360度視認可能な3Dモデルによる商品展示は、アパレルアイテムや食品とも相性が良く、売り上げの向上にもつながっている。
利点としては体験やコミュニケーションの双方向性も挙げられる。これにより、今まで不向きとされていた商材の販売拡大も期待される。
例えば、3Dモデルで高級車を構築すればVR空間内で試乗が行え、ディーラーのアバターから接客もリアルタイムで受けることができる。VRでの試乗が実際の店舗への来店に結び付くデータも出ており、全世界のメーカー各社がVRのショールームを作成している現状だ。
昨今は、メタバースという言葉の認知も広がり、市場もすでにブルーオーシャンと呼べない状況だ。先行者利益を得るためには、今年前半のアクションが求められる。
今後市場が広がる中で、既存のECモールの「VR版」のようなプラットフォームが台頭することも予測される。メタバースを活用したECを検討する事業者には、こうした状況も想定し、汎用性のある仮想店舗の開設を勧めたい。もちろん、実績やノウハウを持つパートナー企業の見極めも重要となる。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈動画コマース〉
サムライパートナーズ
プロモーション事業部長 青木康時 氏
インフルエンサーD2Cが新マーケに
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サムライパートナーズ(本社福岡県、入江巨之代表)は、ヒカルや宮迫博之を含め、多数のユーチューバーやインフルエンサーをプロデュースしてきた。同社の青木康時プロモーション事業部長には、数々のインフルエンサーのECをプロデュースしてきた実績がある。青木氏は、「21年は『インフルエンサーD2C』の成功事例が多く生まれた年だった」と振り返る。22年は、「感度の高い企業が、インフルエンサーD2Cに続々と参入し、新たなマーケティングが始まる」と予測する。
21年は、ユーチューバーなどのインフルエンサーが、自分がプロデュースした商品を、動画を使ってECで販売する「インフルエンサーD2C」の成功事例が多く生まれた。インスタグラムなどのSNS広告が成果を出しづらくなっている中で、企業から、動画マーケティングについて問い合わせを受けるケースも増えた。
インフルエンサーが単に動画で商品を紹介するだけではヒットしない。インフルエンサーが視聴者とコミュニケーションして、ファンと共同で商品を開発する方が、売れる商品になりやすい。「SDGs」「脱マイクロプラスチック」などのキーワードを、意識的に商品開発に取り入れるケースも増えている。
多くのインフルエンサーは、動画プラットフォームに頼らず、”マイブランド”を作りたいと考えている。広告して終わりではなく、継続的に事業化したいようだ。
22年は、感度が高く、スピーディーに事業を進められる企業が、インフルエンサーとの”共同D2C”を始めていくのではないか。ユーチューバーというと、「炎上する」という印象があるため、ガバナンスを意識する大手メーカーなどは手を出しづらいという側面もある。プロデュースする側の当社としては、インフルエンサーに対して、コンプライアンス意識を強化するよう常にアドバイスしている。
当社としては、企業のブランドイメージとマッチした、イメージ・視聴者層を持つインフルエンサーをキャスティングし、商品の共同開発企画を提案していく。今後、「インフルエンサーD2C」から数多くのヒット商品が生まれ、「インフルエンサーの動画」を使ったコマースが、広がりを見せていくのではないか。
有識者に聞く!【2022年 EC市場展望】〈コンプライアン〉
東京神谷町綜合法律事務所
弁護士 成眞海 氏
特商法違反の摘発が増える
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21年は特定商取引法が改正され、定期購入規制の規定が盛り込まれた。医薬品医療機器等法(薬機法)にも、課徴金制度が導入された。特商法や薬機法に詳しく、定期型通販・EC企業の顧問弁護士を務める、東京神谷町綜合法律事務所の成眞海(せい・しんかい)弁護士は、「22年は、これまで特商法違反で業務停止命令を受けたケースと同様の違反を行っていた企業がいた場合、当局が次々と指摘をしていくのではないか」と話している。
21年は特商法が改正され、「定期購入でないと誤認させる表示に対する規制の直罰化」などが盛り込まれた。21年11月から12月にかけては、「定期購入でないと誤認させる表示」の具体例などが示されたガイドライン案も公表された。
ただ、既存の「インターネット通販における意に反して契約の申し込みをさせようとする行為に係るガイドライン」から抜本的に変わったとは言いづらいと思う。規制の対象は引き続き最終確認画面であり、トラブルの根本的な原因である広告そのものの表示については、規制の対象となっていない。広告表示そのものを変えなければ、定期購入のトラブルの悪質事業者との”いたちごっこ”は続いてしまうだろう。
22年も、これまで特商法違反で指摘を受けたのと同様の違反について、これまで以上に指摘される件数が増えていくのではないか。
薬機法については、課徴金の納付命令が下された事案がまだない。医薬品的効能効果をうたう未承認医薬品としての健康食品や化粧品も、課徴金の対象になる。ただ、当局が実際のところ、規制対象をどこに設定しているかは、現状では不明確だ。他法令と運用がバッティングする可能性があるため、慎重な執行になっているのかもしれない。
ただ、当局が、法律の運用の実績を作りたいのは間違いない。引き続き、当局の動きに注意する必要がある。