【ネットが拓く〈リテンションの時代〉】連載第23回 消費者の感動に焦点

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■消費者が主導権

 元号が令和になったからではないが、マーケティングの方法論を見直している。モノがあふれているとか、メーカーの作り出す商品はみんな同じとか、差別化ができていないとか言われている。
 経営者・開発者・販売者は盛んに「消費者に選ばれる商品づくりを!」と訴えてはいるが、残念ながら突破口が見えない状況だ。グローバルに見てみれば、多くの国々が良質の商品を適正な価格で販売できる時代になった。
 モノ不足の時代であれば、メーカーが市場の主導権を握ることもできたが、モノが充足してきた時代は、市場の主導権は消費者が握ってしまう。
 そうなると、消費者が何を望んでいるか、何に困っているかなど、消費者視点で考え、商品を開発していく必要が出てくる。そうした市場の大変革に合わせた思考方法や経営手法が必要になってきた。
 そんな中で「デザイン思考」や「デザイン経営」という言葉を聞いた。「デザイン思考」とはデザイナーがデザインするときの思考プロセスにのっとり、今までにない問題や未知の課題に対して解決策を発想するという方法論である。
 昔の任侠映画や捕り物映画を見ていると、「絵を描く」という言葉が多く出てくる。何か物事が起こったときの解決の方法として、全体を俯瞰し、解決に至る道を直線的に描く方法である。
 私の周りにいた優秀なデザイナーやクリエイターは、この「絵を描く」能力が抜きんでていた。彼らは会議の最中に突然「ひらめいた!」の言葉とともに、解決のデザイン・コピー・プランを描き出していた。


■今後の方法論

 マーケッターとして私もこの方法を活用させてもらった。マーケティングという特性上、ロジカルシンキングが基盤となるが、最終段階でこのデザインシンキングの方法を活用してきた。
 まず、消費者のニーズや課題を分析し、競合との差別ポイントを探していった。ここまでは通常のマーケッターの方法であるが、最後に思い切った「跳んだ案」を出していく。
 この思い切った案を出すことを「感性ジャンプ」と呼んでいた。ジャンプに必要な踏切台は、正しいとかベストではなく、消費者の感動をエネルギーとすることであった。
 正しいとかベストという考え方は、「変動スピードが速く予測が困難で、要素が複雑、曖昧な結果」が当たり前の時代には合わない。
 それよりも消費者の感動という心模様を見る方に焦点を当てた方が、全体をくくることができて成果に結び付きやすい。「ロジカルに考え」「感性でジャンプ」が、これからのマーケッターの方法論である。
 まずは、顧客と企業が共創しやすい構造であるリテンション・マーケティングを、踏切台とすることから始めるのがお勧めである。


〈プロフィール〉
伊藤 博永(いとう・ひろなが)
 1993年3月、旭通信社(現ADK)入社。2001年4月、価値総研取締役、09年4月、ADKダイアログ代表取締役、12年1月、アディック取締役(現任)、15年9月、日本リテンション・マーケティング協会理事、18年4月、日本リテンション・マーケティング協会監事(現任)。

 筆者に関する問い合わせは、一般社団法人日本リテンション・マーケティング協会事務局((電)=03―6434―0703)まで。http://j-rma.jp/

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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