【ネットが拓く〈リテンションの時代〉】連載第19回 新時代へのマインドセット

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感心している出版、新聞事例

 2018年の終わりごろからBeyond Digital(ビヨンドデジタル)と言う言葉がマーケティング業界でちらほらと語られるようになった。広告コピー的に和訳すれば「デジタルの向こうに!」である。何だか自動車メーカーの広告コピーのようだが、境界線を越えて行く世界観のようなものを指していると考えている。
 抽象的な世界観なので具体的な事例を提示するのは難しいが、簡単に言えばデジタルで集客し購入に至らせるには、今のようにデジタルで完結させるのではなく、もっといろいろな道があることを示しているようだ。
 大手広告会社もこの考え方をもとに、生活者の接するデジタルとリアルの両立を説き始めている。認知から集客・動機付け・購買のすべてがデジタルのみで完結してしまう道もあれば、最終的な動機付け・購買をリアルな媒体や場所に結び付ける道もある。このデジタルとリアルの融合が「デジタルの向こうに!」の世界であるようだ。
 デジタルとリアル店舗との融合は、今はやりのオムニチャネルで実現するし、デジタルと印刷との融合は、ビッグデータで抽出された有望顧客にDMやチラシを届けることで実現可能である。
 今の時代「デジタルの向こうに!」を見据えているのは、出版業界や新聞業界ではないかと思っている。顧客である読者にメールでイベントや出版物を告知し、リアルな場所でイベント開催をし、会場で出版物を販売。最後にイベントの新規来場者に、再びメールで次回のイベントや新刊や新聞を案内する。
 効果的な循環で顧客を獲得し、既存顧客にも飽きられない情報を提供し続け、リテンションを強化していく。時代の最先端情報を提供している、出版社や新聞社ならではの展開と感心している。


生活者と企業を結ぶマーケに

 19年、社会はデジタルテクノロジーの進化と浸透により大きな変化の真っただ中にいる。AI・ビッグデータ・デジタルエコノミー等の拡大と、SNSの普及・人口減少・限界マーケットによる消費者の変化が、既存のビジネスモデルに変化を迫っている。
 20世紀型ビジネスモデルでの正解が、今も正解とは限らない時代。新しい概念やテクノロジーに適合させる方法は、既存の仕組みを上手に組み合わせ、小さな失敗を重ねながらもビジネスモデルを構築していき、さまざまな状況に順応しながら前に進んでいくことである。
 予測不能な毎日が続く環境は、ネットビジネスに携わるビジネスパーソンにプレッシャーを与えるが、前に向かって進むことを念頭に置き、新しい時代に向かってマインドセットすることが成否を分ける。
 日々刻々と変わる状況に前向きに、デジタルとリアルの融合を積極的に切り開き、ブランドロイヤルティーの向上と販売の向上を目指していくこと。企業と消費者をダイレクトにつなぐマーケティング戦略が不可欠であると認識し、19年の扉が開いた今こそ、生活者と企業を結ぶリテンションマーケティングに挑戦し、新しい地平を切り開いていくビジョンが大切である。(毎月1回掲載)


〈プロフィール〉
伊藤 博永(いとう・ひろなが)
 1993年3月、旭通信社(現ADK)入社。2001年4月、価値総研取締役、09年4月、ADKダイアログ代表取締役、12年1月、アディック取締役(現任)、15年9月、日本リテンション・マーケティング協会理事、18年4月、日本リテンション・マーケティング協会監事(現任)。
 筆者に関する問い合わせは、一般社団法人日本リテンション・マーケティング協会事務局((電)=03—6434—0703)まで。http://j−rma.jp/

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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