【踊らされない!戦略的自社ECのTEC活用術】第9回 ECと実店舗の両方で顧客情報を収集

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■膨大な情報を求める顧客
 現在、ECの強化を行うアパレルブランドが増えています。ただ、実店舗がメインの企業の場合、自社ECの購入率は、すべての販売チャネルの内1%未満ということが多く、この数年で購入率が劇的に高まったという話は聞きません。顧客のオムニチャネル化が進んでからはむしろ、ECの購入率が低下しているかもしれません。
 実は昨今、顧客が商品について求める情報の量が増大していると感じています。購買に至るまでに求められる情報量が増えているんじゃないかと思うのです。例えば、某ブランドの自社ECでは、1万5000円の商品がコンバージョンに至るまでに、顧客は平均3回サイトに来訪し、80ページほどを閲覧していたそうです。
 こうなってくると、網羅的な情報をまとめたランディングページだけでは購買の判断ができません。”情報の質”を一定程度保ったページが複数ある方が、コンバージョンに結びつきやすくなるのかもしれません。
 しかし仮に、購入に必要な情報が増えたとしても、それだけで能動的にコンバージョンに至るようになるとは限りません。情報量が増えれば、迷子になることもあります。だからこそ現在は、CRMやレコメンドで、「ユーザーアクション」に基づいたお知らせをする手法が主流になっているのです。
 例えば、顧客の「お気に入り」登録などを基準に、在庫が僅少になった際や、値下げが行われた際などに通知し、購買を促す仕組みがあります。
 この仕組みはZOZOが開発したものですが、その後劇的に普及が進みました。各社が取り入れている有効な手段です。
 他にもナノ・ユニバースは、実店舗の情報を通知する仕組みを導入しています。顧客がよく訪れる店舗や顧客の現在地付近の店舗の商品の在庫状況を、アプリで表示するサービスを提供しています。


■取得できないデータを収集
 「ビーコン」と呼ばれるシステムを導入する店舗も増えています。顧客のスマートフォンが特定の範囲に入ると、店舗に設置した機器がBlue tooth機能でその位置を感知し情報を通知する、というものです。
 「ビーコン」は、来店前の顧客に情報を通知するために使うのが主流ですが、顧客が店舗内を回遊する際、近くの棚の商品情報をお知らせするといった使い方も可能でしょう。
 アマゾンは、ウェブ上のデータと、顧客のリアルでの行動をひもづけたデータ蓄積を目指しています。先日、実店舗でもアマゾンのQRコード決済「AmazonPay」が使えるようになりました。このことは、アマゾンが、デジタルだけでなく、リアルでも顧客のデータを取れるようになったということを意味します。集まったデータを基に、顧客が「何を」「どのような周期で」「どこで買っているか」といったことについて行動分析をすれば、より精度の高いレコメンドをアプリなどで提示することも可能になります。
 また、アパレル製品のタグに情報読み取り用のICチップを埋め込む仕組みを取り入れる企業も増えているようです。ICチップを利用して在庫管理などを行うのが目的です。
 一方で、「顧客が来店したけれど購入をしなかった」といった情報は取得しづらいです。「店舗には存在しない商品のニーズ」なども把握しにくい情報といえます。
 今後は、ウェブ上のデータと、現実世界の顧客の行動の両方を分析し、顧客にとってスムーズな買い物環境を構築することが大切です。また、現在取得できていないデータを収集していくことも必要になるでしょう。



〈プロフィール〉
 ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 事業本部長
 川添・隆(かわぞえ・たかし)

 アパレル関連企業2社を経験後、前職ではEC事業責任者として売上倍増に寄与した。2018年4月よりビジョナリーホールディングスで現職。ECを4年で3・4倍に拡大。オムニチャネルに取り組む傍ら、コンサルも手掛け、EC関連のセミナーにも多数登壇している。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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