■「どう使ってもらえるか」
生鮮食品ECのオイシックス・ラ・大地の奥谷孝司COCOが提唱している「顧客時間」という考え方によると、顧客の購入体験の前後には、「選択」→「購入」→「使用」の三段階があるそうです。
昨今、顧客が実際に商品を使う段階である「使用」を重視した、売り手からのアプローチが普及しつつあります。商品を長く使ってもらうために、商品の活用方法を顧客に伝える、といったやり方です。
これまでは、購入意欲をあおり、買ってもらうことがゴールでした。現在は、どう使ってもらうか、という点を重視して、データを活用するかがポイントとなっています。
例えば洋服ならば、買った後にどのようにコーディネートするか、という悩みがあります。
アパレル通販を運営するディノス・セシールでは、購入した商品のコーディネート例を、紙の同梱物にまとめて送っています。ディノス・セシールでは、顧客が投稿した商品のコーディネート画像を、インスタグラムから抽出する技術を用いて、カタログの画像として引用しています。現代の潮流に合わせた新しい試みです。
アパレルメーカーのアダストリアのアパレルブランド「ドットst(エスティー)」では、スマホアプリでパーソナライズしたコーディネートの提案を行っています。顧客が購入した商品について、店舗スタッフがコーディネートを考案。その画像を一定期間だけ、購入者のトップページに表示するのです。購入者は、「使用」の参考になる情報にアクセスしやすくなります。
これらは、購買データを活用して「使用」の段階をフォローしながら、新たな購買チャンスにつなげる仕組みといえます。
「選択」を促し「購入」まで顧客を導くことができても、「使用」をフォローできる企業は多くありません。
しかし、顧客にとってもっとも本質的に欲しているものは、「使用」の段階です。「使用」して商品を気に入ってもらうことが、信頼につながり、次の購買につながります。
■「選択」の時間を短縮
また、過去の閲覧履歴や購買データから把した「顧客の好み」を基に提案し、「選択」にかかる時間を短縮、購買につなげる、というのも一手です。ECサイトで得た、閲覧履歴や顧客データを、実店舗での接客に活用するのも良いでしょう。
当社の「メガネスーパー」では、ウェブから来店予約ができるシステムを導入しています。お客さまに店頭でお待ちいただく時間を極力少なくするためです。お客さまの予約情報と購入した商品情報をひも付けしています。
今後は、予約時典でお客さまのニーズを把握する取り組みをスタートさせようとしています。お客さまと当社のスタッフ双方のストレス軽減のため、取り組みをブラッシュアップさせていきたいと考えています。
■データをどう使うか
ECサイトの閲覧履歴を実店舗で利用されることについては、抵抗がある世代もあります。若年層ほど抵抗がないという調査結果があるようです。データ活用に際して顧客の合意を得る必要もあるでしょう。
一方で、単なる購買・閲覧データを基に、ニーズを突き止めようとすると、どうしても複雑な分析が必要になってしまいます。その複雑なデータを店舗と共有しても、有効には活用されないでしょう。店舗スタッフへの情報共有の方法もシンプルにする必要があります。(つづく)
〈プロフィール〉
ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 事業本部長
川添・隆(かわぞえ・たかし)
アパレル関連企業2社を経験後、前職ではEC事業責任者として売上倍増に寄与した。2018年4月よりビジョナリーホールディングスで現職。ECを4年で3・4倍に拡大。オムニチャネルに取り組む傍ら、コンサルも手掛け、EC関連のセミナーにも多数登壇している。
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