【特別インタビュー〈楽天〉】 スマホ台頭でECが生活の一部に 海外販売に挑戦すべきタイミング /〈高橋理人常務執行役員/河野奈保執行役員〉

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む
髙橋理人序常務執役員

髙橋理人序常務執役員

楽天市場は、14年10―12月期(第4四半期)の流通総額に占めるモバイル比率が44%に達し、半数超えが目前に迫っている。スマートフォン(スマホ)が台頭する頃からモバイル対策を出店者に訴えかけてきた楽天は、今後も店舗にとってスマホページをさまざまに工夫できる仕組みを提供していく考えだ。今期は海外展開も積極的に推進し、海外販売で実績を出している店舗の事例も出てきている。二重価格問題を受けて立ち上げた品質向上委員会は、偽ブランド品の撲滅や「正しい店舗運営」を行う店舗を評価する取り組みを続けている。高橋理人常務執行役員と、品質向上委員会委員長を務める河野奈保執行役員に、現在の楽天市場の現状と今後の方針について聞いた。
店舗の9割がスマホ対応

 ─楽天市場の流通額のうちモバイル経由が半数に迫っていますが。
 高橋常務執行役員(以下、高橋) PCは電源を入れて立ち上げて「さあ買うぞ!」というイメージですが、スマホはもっと簡単にアクセスしています。日々の中にECが自然に組み込まれるようになりました。当社は「Shopping is Entertainment」と呼んでいますが、スマホではこういう時代がPC以上に色濃くなってくると思います。
 ─グーグルの発表によると、スマホ対応していないサイトは検索上位に上がりにくくなるようです。これに対する見方は。
 高橋 当社はスマホやタブレットなどの各端末を自動的に最適化するよりも、しっかりその画面に表示を合わせる工夫を施しています。
 河野執行役員(以下、河野) ここまで対策しているサイトはほかにないと思います。タブレットでもソースコードを全部専用にプログラミングして、それぞれの端末でサイトを運営しています。ここ5年ほどはレスポンシブデザインではなく、個別の対応をしています。
 高橋 正直コストを要していますが、手間をかけてでもユーザーにとって見やすい楽天市場を作ろうという考えです。


さまざまなデータを開示

 ─店舗に対してはどのようにスマホ対策を呼びかけていますか。
 河野 スマホだけを使うユーザーのことを考えてページを作ってもらうように呼びかけを徹底していて、約9割の店舗がスマホ用のページを編集するようになりました。
 高橋 スマホページの編集に慣れないうちは多くの店舗がパターン原稿的に行っていましたが、転換率はよくありませんでした。PCと同様のオリジナルページを作ることが大事です。単に商品が並んでいて簡単に買えるだけでは面白くありません。楽天が大事にしている店舗の思いや商品のヒストリーなどを反映させることがスマホサイトには向いていて、それを実施した店舗に成功事例が出てきています。これを受けてECC(楽天のECコンサルタント)から店舗への働きかけを強化しました。その結果、転換率はどんどん改善していきました。
 河野 3年前から各店舗がスマホ向けの編集を開始しています。その頃は「スマホはシンプルUI(ユーザーインターフェース)でなければいけない」と言っていた時代でしたが、当社はあえて「スマホでもシンプルではなくロングページに」と訴えていました。現在、それが功を奏する結果となっています。
 高橋 ガラケーの時代もモバイル比率は若年層ファッションなどの店舗では7~8割を占め、平均でも2割ほどになっていました。スマホはより一層表現力の自由があり、店舗ごとに工夫ができると見ています。
 河野 当社が提供する基本機能自体もリッチ化していきます。今年から来年にかけて機能を開発していく予定なので、もっと表現が広がるようになっていくと思います。
 ─スマホ対策をしていないと、楽天市場で不利になってしまうのでしょうか。
 高橋 それはないです。しかし、ユーザーに支持されていないと検索順位が上にならないという面はあります。
 河野 当社は直接ページを見るというより、ユーザーの反応を見ています。ユーザーがそのページに滞在して「コンバージョンする」「売り上げにつながる」ということをユーザーの評価として見ています。スマホに対応していないUIが表示されると離脱も多くなってしまうと思います。
 高橋 今はスマホ対応をしているか、していないかという議論ではなく、どのように編集しているかという議論になっています。年度末までに各店舗がそれぞれ工夫できるようなさまざまなデータを開示していきたいと考えています。
ロッカーのリピート利用進む

 ─商品が駅などで受け取れる「楽天BOX」の利用状況は。
 高橋 コンタクトレンズ、ファッション、小物などで利用が進んでおり、利用者は圧倒的に女性が多くなっています。宅配業者と玄関先でやり取りするのに抵抗がある人や、商品が届くのを家で待っていられないときなど、さまざまなニーズのもとに利用が進んでいます。
 河野 宅配業者と玄関先でやり取りしたくないと思う女性は、自宅にいてもマンションの宅配ボックスに入れてもらうように毎回指定しているそうです。ただ、宅配ボックスが備え付いていないマンションもあったり、昨今は宅配ボックスが埋まってしまっているという声も多くあります。
 ─「楽天BOX」のリピート利用者は増えていますか。
 高橋 大坂・なんば駅に設置している「楽天BOX」の利用状況を分析すると、リピーターは多いようです。受取手段が自宅だけだった場合には購入してくれなかったユーザーが購入してくれているというケースもあると見ています。
 河野 店舗のリピート顧客の創出にも貢献している可能性もあります。ロッカーで受け取れるサービスの認知度は確実に向上してきているように感じます。なんば駅では、店舗スタッフが直接商品を置きに行くこともあるそうです。その場合、注文した日の夕方に受け取れるようにもなるので、面白いビジネスだととらえています。
 ─冷凍・冷蔵への対応はどう考えていますか。
 高橋 インフラ、コスト、ロッカーが劣化したときの対応、品質管理上の責任はどこにあるかなど、課題がたくさんあるので、対応は簡単ではありません。真夏に冷凍・冷蔵の食材を出し入れするのもよくないので、現実的な対応策を打ち出すのが難しい状況です。しかし、ユーザーからのニーズは確かに感じています。


店舗にとっての訴求力に

 ─4月に始まった郵便局内の受取ロッカー「はこぽす」はどのように告知していますか。
 高橋 店舗ごとに行っています。スタート時点で参加しているのは約300店舗です。全4万店舗が利用できるわけではないので、「当店は『はこぽす』でも受け取れます」と早めに訴求していただくことが一番だと伝えています。「はこぽす」も利用できるということが、店舗にとって強い訴求力とメリットになってほしいと考えています。
 ─24時間受取可能なロッカーを設置しているのは有人の郵便局です。局員から受け取れるのにあえてロッカー受取を可能にする理由は。
 高橋 人がいることで安心感は高まるのに、対人で受け取るのには抵抗があるなど、ニーズは本当に細分化しています。 
 河野 銀行と同じではないでしょうか。窓口とATMの両方の利用者がいますから。
 ─「はこぽす」は拡大してくと思いますか。
 高橋 ロッカー自体は日本郵便の所有なので、協議しつつも設置場所などは基本的には日本郵便の責任のもとで検討しています。日本郵便は受取ロッカーの設置について、たくさんの女性ユーザーがいる当社と最初に取り組みたいと思っていたようです。駅前やオフィス街など都内の主要な郵便局から設置を開始しています。雨天にも対応できるロッカーはあるので、今後は室内設置が必須ではなくなると思います。小規模な郵便局でも壁面利用などで対応すれば拡大する可能性は十分にあると考えます。
 ─今後、受取ロッカーにはどのようなニーズが出てくると思いますか。
 高橋 現在は駅や郵便局から歩いて持って帰れる大きさの商品が入れられるようになっていますが、自宅以外で受け取りたい場所はさらに多様化するかもしれません。普段、車を利用する人はもっと大きいサイズの商品をロッカーから持って帰ることも可能です。サイズ、場所など受取ニーズの多様化はまだまだ進むと思っています。
日本店舗に高い評価

 ─日本の店舗の海外展開について聞かせてください。
 高橋 現在、海外販売に取り組んでいる店舗は半数に満たないですが、クロスボーダー取引は当たり前になってくると思います。当社も12カ国に進出して改めて分かったのが、日本の商品や、日本人がクオリティーコントロールしている商品は高く評価されるということです。梱包や顧客対応などのおもてなしも、海外の顧客から好評です。それらは日本の楽天が強みとするところであり、店舗ももっと自信を持っていいと思います。楽天と共に海外進出しようと訴えかけています。シンガポール楽天は昨年1月にグランドオープンしたばかりですが、日本の店舗が約4割を占めるようになりました。
 ─商品の発送はどうしていますが。
 高橋 店舗が日本の倉庫に発送し、日本の配送業者が毎日1便まとめて発送しています。このため、送料も比較的安く済み、シンガポールでは日本商品のシェアが高くなっています。
 河野 シンガポールの楽天では酵素やスムージーなど、日本の楽天市場でも人気の商品が売れています。冷凍便も可能で、多少の送料がかかっても買いたいという現地のユーザーは多いです。
 高橋 グローバルブランドでないと売れないということはありません。日本から買う物はいいと話題になっているので、このタイミングに海外に挑戦するべきだと思います。香港向けの「美食日本」で人気になっている店舗はクロスボーダーのシェアが高くなっていて、海外出店に積極的な店舗として、一つの見本になっています。


キャンセル率は低下

 ─4月に中国の会員制オンライン・キャッシュバック・サイトを運営するFanli(ファンリ)社への出資を発表しましたが。
 高橋 久しぶりに中国へ再進出する形になります。ですが、今回は地元のマーチャント出店を求めるというより、クロスボーダー拠点として考えています。
 河野 日本の商品は中国でも人気です。ラベルを現地の言葉に言語化すると、逆に売れ行きが悪くなることがあります。読めなくても日本語表記のままがいいようです。
 高橋 現地のスーパーマーケットに行くと分かりますが、全ての日本コーナーでは何も現地のラベルが貼られていません。日本語のままお菓子や薬品も置いています。ネットが特殊なのではなく、リアルでもそうなっているのです。日本はもっと身近になっていると感じます。
 河野 昔は海外発送だとキャンセル率がすごく高かったという話がありましたが、これもだいぶ落ち着いて、日本と同じレベルのキャンセル率の低さになってきました。送料がかかることも全て理解した上で、それでも欲しいという海外ユーザーがすごく増えています。海外展開について懸念するより、今は攻めるべきだと思います。完璧に準備してから海外進出したいと考えている店舗も多いようですが、その必要はないと思っています。サイトが完璧に英語でなくても、ネットはレビューなどでほかの人が補完してくれるメリットがあります。ときには「この英語はこう直した方がいいです」とユーザーが教えてくれるなど、面白いやり取りがあるそうです。
 高橋 新春カンファレンスでも例に出しましたが、福岡で夫婦二人とアルバイトだけで運営している釣具店が、受注の3割を海外が占め、3年間で50カ国以上から注文が来るようになっています。10万円の釣り具も海外ユーザーがよく買っていくそうです。当社としては、もっとシステムを楽にして、海外向けに売るのも日本に売るのも同じようにできるシステムにしていきたいと思います。店舗の手間をもっと楽にしていきたいと考えています。
運営が良い店舗にメリットを

 ─品質向上委員会を立ち上げてから1年半が経ちました。最近の動きは。
 河野 1年目は品質向上委員会を立ち上げたきっかけになった価格表示について徹底的にルールを作り、モニタリングも行って、何かあったときはすぐに修正してもらうようにしてきました。2年目に入って今年は新たな取り組みとして「スマイルプロジェクト」を始めました。これは良い店舗運営をしていて、ユーザーからの良いレビューをもらっている店舗へのナビゲーションを優遇するというものです。罰則ではなく正しい運営をしている店舗にメリットがある場を作るようにしています。
 ─良い運営の指標とは。
 河野 ユーザーからの当社への問い合せの状況や、レビューの書き込み状況などを全てデータで分析しています。レビューの件数が多ければいいというものではなく、レビューの中身を見ています。当社の研究所では、レビューの文章解析までできるようになっています。こうした技術の進歩を駆使して、より正しい運営をしている店舗が「スマイル」になれる取り組みを始めています。


連携ブランド700超に

 ─海賊版・模倣品の対策も強化しているそうですが。
 河野 現在、700以上のブランドが「真贋パートナー」になっています。例えばユーザーから問い合わせがあったときに、楽天だけでは本物かどうかの審査は難しいですが、連携している700ブランドが確認してくれるので、その商品が本物か確かめることができます。楽天は価格だけではなく、安心してブランド品を買えるサイトとして確実に進んでいます。
 高橋 ブランド各社もリアルの場で偽物撲滅に成果が出てきたのに、ネットで流通してしまうとすごく嫌な思いもしてきたと思います。当社のスタンスはブランドからも評価されています。
 河野 パートナーのブランドと商品を確認して偽物と判断した場合、商品代金をポイントでキックバックするキャンペーンも実施しましたが、利用者はほぼいません。偽物撲滅に寄与している証拠だと思います。ユーザーが安心して買い物できるために、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。

河野奈保執行役員

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ