【楽天市場】「プレミアムな店舗の集合体」目指す/9月1日から新制度を導入/品質維持・向上施策を強化

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む
図表1

図表1

 楽天はこれまでの「品質向上」の取り組みに、9月1日から新制度を導入し、「楽天市場」における品質維持・向上のための施策をさらに強化していく。その内容は、(1)ユーザーの声により一層耳を傾けたフォローアップ(2)悪質性のある出店者への違反点数制度の導入ーーの2点。「楽天市場」をより、「プレミアムな店舗の集合体」とすることを目指す。ユーザーと、正しく商売を行う出店者にとってより安心・安全で魅力的なマーケットにしていく方針だ。

■15年の不正検知額は約72億円
 楽天はユーザーへの安心の提供として、07年に「あんしんショッピングサービス(※補足1)」の初期版をリリースして運用を開始。13年秋の「楽天日本一セール」で出店者の一部が二重価格の表示を行い、景品表示法(景表法)に違反した問題を真摯に受け止め、楽天として安心・安全なショッピングの場の構築に向けた対策を年々強化してきた。
 それまでも法令やルールの順守を出店者に呼び掛けてきたものの、出店者の取り組みだけに任せるのではなく、楽天自体の取り組みを徹底していく方針とした。14年には「楽天市場品質向上委員会(※補足2)」を立ち上げている。
 14年は価格の表示に関するルールの制定や二重価格表示ができないようにするシステムへの投資、「楽天市場」に関わる全社員に向けた景表法のEラーニングの実施、出店者向けの啓もうビデオの制作などに力を入れた。
 15年はブランド模倣品の対策を本格化した。「ブランド模倣品がネット上にあって当たり前とするのではなく、模倣品が反社会的な団体の資金源にもなりうると認識し、これを撲滅したいと考えている。ユーザーの保護も徹底したい」(河野奈保上級執行役員)という方針のもと、「楽天市場」でブランド模倣品の補償も強化した。
 「楽天市場」で購入したブランド商品が模倣品だった場合、ユーザーに1回あたり30万円まで補償している。ユーザーから問い合わせがあった際にその商品が本物であるかを確認するため、多くのブランドが「真贋(しんがん)パートナー」となって提携している。さまざまなブランドが楽天の考えに賛同し、提携ブランド数は16年3月末時点で1139ブランドに達している。
 ブランド模倣品対策だけでなく、不正な購入防止策も強化している。不正なIDやパスワードで注文をしていると思われるときや、空き家などの住所を配送先に指定している場合などは出店者に商品配送を停止するよう呼び掛けている。不正注文の行く末は、高級ブランド品などを海外で高額に転売するといった悪質なケースが確認されているためだ。
 不正を検知して配送を未然に防止した金額は、15年の1年間で72億円の販売額分となった。
 16年に入ってから、楽天の非会員も「あんしんショッピングサービス」が利用できるようになり、全ユーザーが補償の対象となった。
 こうした価格表示対策、ブランド模倣品対策、不正な購入の検知・防止、補償の充実化を引き続き強化しつつ、今年は「楽天市場」の品質維持向上に向けて、(1)レビューの傾聴施策の強化(2)違反点数制度の導入ーーの2点に力を入れていく。

※補足1・「あんしんショッピングサービス」
 「商品が届かない」「商品が指定日に届かなかった」「商品ページ上の商品説明と著しく異なる商品・欠陥品が届いた」「返品したが対応されない」「ブランド品が偽物だった」という場合に、配送料込みの購入金額30万円までを年間5回まで、年会費不要で補償するサービス。
 補償方法は現金か楽天スーパーポイントから選べる。ユーザーにはこういったトラブルがあった際はまず購入した店舗に問い合わせるよう促している。それでも店舗の3営業日以内に回答がない場合や、回答内容に納得がいかなかった際に補償の申請をする仕組みとしている。

※補足2・楽天市場品質向上委員会
 「楽天市場」をユーザーにとって安心で安全な買い物の場へと品質を高めていくために、14年1月に立ち上げた組織。河野上級執行役員が委員長を務める。
 問題のある二重価格表示ができないよう、システム制御を行っている。景表法の価格表示・割引表示を分かりやすく解説したガイドブックの制作や、「楽天市場」の業務に関わる全社員に対する景表法のEラーニングも実施している。
 表示の監視、各種ルールの制定、ブランド模倣品や海賊版の対策など、出店者、ユーザー、楽天社内それぞれに向けて品質向上の施策を打ち出している。


《レビューの傾聴の強化》
■「レビューを見ていると分かって安心」の声
 今年の年始から、低いレビュー評価を付けたユーザーに楽天からフォローアップの電話を掛ける「品質向上に向けた傾聴施策(※補足3)」に取り組んでいる。低いレビュー評価をした理由などをヒアリングし、品質向上のサイクルに即時に反映してより良いサービスを目指すことが目的だ。
 低いレビュー評価を入れる人はどういう人かデータを分析すると、単なるクレーマーなのではなく、楽天でたくさん買い物をしている人だということが分かった。何度も「楽天市場」で買い物をした中でたまたま残念な体験をし、楽天や店舗に改善してほしいという思いがあるからこそ、レビュー評価に1を意図的に付けたというケースが多いと分析している。
 この結果を受け、「低いレビュー評価を付けたユーザーの声にしっかり耳を傾け、ファンになってもらうように取り組んでいきたい」(同)としている。
 低いレビュー評価を察知し、楽天がユーザーにフォローアップの電話をした後、ECコンサルタント(ECC)がその出店者にコンタクトを取って改善を促している。ECCと改善策について話し合った出店者の半数以上が、その後店舗レビューが向上しているという。
 電話が掛かってきたユーザーの反応は、最初は驚く人が多いものの、「話を聞いてもらって本当に改善に生かしてくれるなら思いをしっかり伝えたい」「いつもレビューは誰が見ているのだろうと思っていたが、楽天がしっかり見ていて店舗にも伝わっているのなら安心した」などの声が挙がっている。

※補足3・品質向上に向けた傾聴施策
 低いレビュー評価を付けたユーザーにフォローアップの電話を掛け、そのユーザーの満足度の向上を図り、「楽天市場」や出店者の不満点も聞き出して改善に生かしている。
 平日、土日祝日の朝9時から夜8時まで対応。5月中旬の発表では1日の平均電話件数は429回となっている。
 ユーザーの不満足をできる限り早く解決するため、レビュー投稿から架電までに要する時間短縮を目指しており、現在は平均約1分のスピードで架電するようにしている。


■出店者とユーザーの声をしっかり聞く
 低いレビュー評価に対してユーザーと出店者の双方に調査をした上で、明らかに出店者側に原因があって改善が必要な事象が月間6件以上に重なると、調査諸経費として1件あたり700円を出店者に徴収する。月間5件までは、出店者側が原因であっても楽天が負担する。
 出店者側の原因となるケースは、例えばメールの誤送信、ユーザーが問い合わせても全く連絡が取れない、著しく不満を抱く対応マナー、購入商品の著しい欠損、事前の連絡や合意のないキャンセル処理などを挙げている(=図表1)。
 レビュー評価が低くても、配送業者の手違いなど、出店者に起因していない場合は仮に月間6件を超えても出店者の費用負担はなく、調査費用も全て楽天が負担する。
 また、低いレビューがあってフォローアップの電話をしたときに、すでに出店者とユーザーの間で解決している場合は問題とみなされない。ユーザーが出店者に連絡をしたが連絡が取れない場合や、出店者の対応に問題があった場合、ユーザーから楽天に問い合わせがあれば楽天が調査を行う。
 「今までは店舗とユーザーがどういう会話をしたかというところまで介入しなかったが、今年からユーザーと出店者の声をしっかり聞いていくという方針を掲げた。ユーザーと出店者のどちらかの声に偏らないように話を聞いていきたい。出店者ごとに顧客対応の基準は異なると思うが、楽天としてできる限りの対応をし、『楽天市場』全体のサービス品質の向上に努めていきたい」(同)と話す。


《違反点数制度の導入》
■問題となる行為を明確に開示
 違反点数制度ーーこの文言だけを見るとより取り締まりが厳しくなるように聞こえるが、そうではないようだ。
 これまでも、禁止商材や禁止行為(=図表2)を規約・ガイドラインで規定し、販売を禁止している商材の販売や禁止行為で退店措置となった店舗もあった。これまで楽天は出店規約のほかに、さまざまなガイドラインを出してきたが、何が違反行為であるかをより明確に開示していくというものだ。
 これまでは何か問題が起きた後に出店者に改善要請を送り、場合によっては注意勧告、営業停止、退店としてきたが、違反行為の詳細をオープンにすることで、出店者自身が未然に違反をしない形で健全に運用ができるようにしていく。
 「楽天市場」での違反行為をオープン化し、違反した場合にはそのレベルに応じて違反点数を付けていく。違反点数は運転免許証のように、1月から12月までの年間累計点数をカウントしていく。
 累積した違反点数で違反レベルを判断し、それに応じた措置を講じる。例えば、最小レベルの違反レベル1.となる累積違反点数35点では、ランキングページに7日間掲載できない制限、検索結果の上位表示の抑制、広告出稿の停止、違約金10万円の支払いが課される。
 ランキングや検索上位に載っていたり広告での訴求をすることにより、不正な行為で商品を大量に販売することになり、次々と被害者を生んでしまう可能性があるためだ。
 違反レベルによって販促制限の範囲や違約金の金額、退店措置などが決められる。あくまでも悪質な事業者に対して厳格に対処していくものであり、大多数の出店者は違反レベル1.には全く達しないという。

■課題を改善していく姿勢が大事
 例えば、今はシステム制御により、割引商品の通常価格を表記する際に景表法の二重価格に抵触する価格表示ができないようになっているが、システムで制御できない箇所に二重価格の表示をしていた場合、違反点数が20点となる。1回目の注意で改善すれば違反レベル1.に満たないが、改善せずに2回以上繰り返すと40点となり、違反レベル1.の35点を超える。問題点を改善しない姿勢により強いペナルティーを課す形だ。
 違反点数制度は出店者の悪意のなかった一度のミスを責めるための制度ではなく、改善の意思が見られない場合や意図的に繰り返している場合などを悪質とみなし、措置を講じるための制度だ。
 無論、未承認のコンタクトレンズや偽造品といった禁止商品の販売や、架空注文、店舗関係者が良いレビューを投稿して店舗の評価を良く見せようとする行為は意図的な悪質行為であると考えられるため、より深刻かつ重大な違反と判断されて違反点数は大幅に高くなる。
 楽天の定める違反例の中には、検索結果を上位表示させるため無意味に同じキーワードを大量に入れる、いわゆる「検索スパム」や、ページのソースコードに「隠し文字」を入れることも挙げている。
 「隠し文字」とは、表向きにページでは表示していない文言だが、ソースコードに検索でヒットさせたい文字列を入れるというもの。例えば、防災セットの販売ページのソースコードに最近災害の多い地域の名称を入れるといった行為だ。不安にかられた人の気持ちを逆手に取り、一般的な検索エンジンで地震が発生した地域名を検索した際にSEOで防災セットをヒットさせ、商売につなげようとする事例などが当てはまる。
 本来買いたい物が見つからなかったり、倫理的に問題のある検索ヒットのさせ方も違反であるということだ。こうした取り締まりが、ユーザーにとって安心・安全なショッピングの場となり、健全な事業者が商売をしやすい場につながっていくと考えている。

■キャンセル・変更の受付を推奨
 図表3にあるように、現在、楽天への問い合わせは納期のほか、キャンセル・注文内容の変更・返品が上位を占めている。この結果を受け、楽天は「キャンセル・返品・交換の推奨」を提言していく。
 管理画面上でキャンセル・返品・交換・注文内容の変更を受け付けるステータスの設定を出店者自身ができるようにしている。キャンセル・返品・交換・注文内容の変更を受け付けるように設定していれば、ユーザー自身が購入履歴の画面からキャンセルしたり、誤って2個注文した商品を1個に変更することができる。
 しかし、キャンセル・返品・交換・注文内容の変更に対応していない店舗で購入した場合、購入履歴画面からキャンセルや変更ができないため、電話やメールで伝えなければならない。ユーザーからすると「2個分の支払いになったらどうしよう」「本当にキャンセルができているのだろうか」と不安になる。
 出店者も24時間365日いつでも電話を受けたり瞬時にメールの返信ができるわけではない。電話の営業時間外やメールの返信を待っている間にユーザーの不安が募り、楽天に問い合わせが来ることもあるという。
 出店者にとってもフォーマット化されていないメールに1件1件回答していると処理に時間がかかる。ほかの作業に時間を割けるようにするためにも、「楽天市場」のシステムの機能にあるキャンセル・返品・交換・注文内容の変更対応を「注文から30分間は受け付けるように」なるべく出店者側で設定した方がいいという考えだ。
 楽天が運営している日用品の通販サイト「楽天24」で問い合わせ数とキャンセル数を調査したところ、キャンセルを受け付けなかった場合の全注文におけるキャンセル率は1・12%だった。一方、キャンセルを受け付けるよう管理画面で設定した場合のキャンセル率は1・06%だった。キャンセルを受け付ける設定にすることによるキャンセル率の変化はほとんどないことが分かった。
 「楽天市場」で調査しても、「キャンセルも注文内容の変更もできない」「注文内容の変更だけできる」「キャンセルだけできる」「キャンセルも注文内容の変更も受け付ける」の設定ごとにキャンセル率を調べたが、キャンセル率はほぼ変わらなかった(=図表4)。
 ただ、受注からすぐに出荷作業に入る商品や、「あす楽」対応商品のように注文を締め切る時間がシビアな商品も多いため、あくまでキャンセル・返品・交換・注文内容の変更に対応することは強制ではなく、「推奨」として訴えていく。

■正しい販売のためのアクションが取れる
 9月1日から施行する取り組みは、ユーザーの顧客満足度の向上と、出店者の健全な売り場を確立していくことを目的としている。
 「楽天市場」には現在約4万5000店舗が出店しており、その中に一部の運営品質が維持できない事業者がいないとも限らないと考え、注意を払っている。
 ショップ・オブ・ザ・イヤーをはじめ、各種の賞を受賞した出店者の多くが自社の業務について「お客さまサービスを徹底した」「配送スピードや物流業務の改善に努めた」など、顧客満足につながるために努力している。楽天もこうした出店者を評価し、出店者の次のモチベーションアップにつなげてきた。
 努力を続ける出店者がたくさんいる一方で、不適切な事業者が「楽天市場」に1店舗でもあれば、健全な商売を行う大多数の出店者に悪い影響が及びかねないことを懸念。品質向上に向けた取り組みをより一層前進させていくことを決定した。
 出店者側が原因だと判断されるケースだけ経費が発生したり、違反点数に応じた措置が講じられていく。違反行為の内容も全面的にオープンにされることで、今まで「これは問題ないだろうか」と心配になり、正しい販売のためのアクションをためらってしまうイメージがあったが、何が違反であるかが明確になれば、安心して正しい販売のためのアクションが取れるようになると期待している。
 「安心・安全の取り組みを出店者と一緒になって進めていくために、問題のある行為を明確に開示するようにした。今年は出店者の声とユーザーの声をしっかり聞いていくことを改めて方針として掲げている。出店者にはユーザーからの問い合わせ対応や日頃の注文も、今まで通りの真摯な対応をお願いしたい」(同)と訴えている。

図表2

図表3

図表4

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ