「楽天市場」の出店者で組織する楽天ユニオンは1月22日、楽天が実施する「共通の送料無料ライン」などの施策が独占禁止法に抵触するとして、撤回を要求する約4000件の署名を公正取引委員会に提出した。さらに公取委へ「共通の送料無料ライン」の導入をやめさせるための措置請求書を提出した。
「送料無料ライン」とは、注文金額に応じて購入者の送料負担を0円にするサービス。楽天は19年8月、「楽天市場」全体の「送料無料ライン」を「注文金額3980円以上」にすると発表した。
「共通の送料無料ラインの撤回要求」の署名は1766件を集めた。署名に加えて、「共通の送料無料ライン」の排除措置命令を求める措置請求書を公取委に提出した。楽天ユニオンの勝又勇輝代表は、「真摯(しんし)に対応いただけた」と提出後に述べた。
■楽天の不当性を訴え
楽天ユニオンの顧問弁護士である川上資人氏は、「共通の送料無料ライン」の排除措置命令を求める理由として、「(共通の送料無料ラインは)独禁法が禁止する『経済上の利益を提供させること』に当たる。さらに、送料負担の強制による送料の損失は、出店契約を締結する際に、あらかじめ計算できない不利益を与える行為であり、独禁法の優越的地位の乱用に当たる」と説明した。
匿名で「共通送料無料ライン」の影響を説明する出店者は、「当社では1万1000円以上で送料を当社負担にしている。送料無料ラインを3980円にすると、平均客単価は3980円に近づくのがセオリーだ。客単価が3980円の場合、宅配料金や梱包出荷作業料、決済手数料、箱代、資材費、倉庫費用などのコストで赤字になる。実際は送料がかかっているのに、送料無料とうたわせることも良くないと思う」と訴えた。
楽天ユニオンの勝又代表は「実際は送料がかかっているのに送料無料と表示すると、店舗が景品表示法に違反しているとして、消費者庁から措置命令を受ける可能性もある」と説明する。
■食い違う両者の見解
楽天は同日、「楽天市場」の事業説明会を開催し、改めて「共通の送料無料ライン」を導入する背景やメリットを説明した。楽天の野原彰人執行役員は、「法務担当などと精査し、コンプライアンス違反はないという認識だ」と強調した。
楽天は、「アウトドアグッズの店舗は19年10月から自主的に送料無料ラインを5500円以上の購入から、3980円以上の購入に変更した。商品価格は変更しなかった。すると前年の実績と比べ、注文件数が14%増加した」(CEO戦略イノベーション室・川島辰吾氏)と「共通の送料無料ライン」の導入メリットを解説した。
楽天ユニオンは、「楽天が『共通の送料無料ライン』の導入に際して参考にした南米のECモール『メルカドリブレ』は店舗の送料負担をしている。楽天の取り組みとは条件が違う」(勝又代表)と指摘。楽天は、「10年間で物流関連に2000億円を投資しており、自社サービスを通して店舗の送料の一部を負担している」(川島氏)と述べた。
■直接のアクションない
楽天ユニオンに対しては、「そういう動きがあることはメディアなどを通じて知っている。しかし、直接のアクションはなく、対応できない状況だ」(野原執行役員)と説明した。
楽天ユニオンは「RON会議室(楽天出店者同士のコミュニティー)で『共通の送料無料ライン』の根拠や実効性について尋ねても明確な回答を得られなかった。話し合う気がないのだと判断した」(勝又代表)と話す。
楽天ユニオンは「共通の送料無料ライン」に加え、「アフィリエイトの料率変更の撤回要求」が1001件、「決済システム『楽天ペイ』の撤回要求」が617件、「違反点数制度・罰金制度の廃止、罰金返還要求」が574件と、4テーマで延べ3958件の署名を集め、提出した。
今後も署名の募集を続けるとともに、「共通の送料無料ライン」以外の「違反点数制度の廃止」「楽天ペイ導入の撤回」「アフィリエイトの料率変更の撤回」などについても働き掛けを強めていく方針だ。
楽天と楽天ユニオンの見解は、平行線をたどる。公取委がどういう判断を下すかに注目が集まる。
楽天ユニオン/公取委に排除措置請求/4000件の反対署名も提出
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