【千原弁護士の法律Q&A】▼189▲ 裁判所判決で措置命令が執行停止されたというが…。

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〈質問〉

 先日、窓ガラスに貼る透明フィルムの業者が、消費者庁から、景品表示法で措置命令を受けたものの、裁判所の決定で、その執行が停止されたという、新聞記事を読みました。措置命令を受けてしまったら、「もうそれまで」と思っていましたが、裁判で争う方法があると知って、意外に思いました。この点について、分かりやすく解説してもらえますか。よろしくお願いします。(訪販会社社長)

〈回答〉 処分に不服あれば裁判で争う道も

 実は、こちらの案件は、私の所属するさくら共同法律事務所で、業者さんの代理人となって担当させていただいています。景表法や特定商取引法で処分を受ける会社は多くありますが、処分について裁判で争うケースは少ないので、勇気をもって抗議される姿勢は、企業側全体にとって良いことだと思います。また、正式な結論は、これからの本裁判で出ることになりますが、ひとまずは、命令の執行が停止されたということで、良かったと思います。
 景表法でも、特商法でも、行政処分が出た場合、法的には、裁判で取り消しを求めることが認められています。数年前に、県から特定商取引法の処分を受けた、埼玉県の自動車関係の会社が、さいたま地裁で処分の取り消しを求め、認められたことが報道されました。この裁判の後、明らかに、都道府県などの処分が慎重になったと思います。
 さて、今回の「執行停止」は、実際の取り消し裁判の前のステージの手続きです。本裁判で、取り消しの可否が決まるのが基本ですが、(1)重大な損害を避けるために(執行を停止すべき)緊急の必要性がある(2)(執行を停止しても)公共の福祉(要は世間の人々)に重大な影響を及ぼさない(3)取り消し理由がないことが明らかではない─場合には、措置命令の効力を停止することが認められます。
 今回の場合は、(1)業者さんにとっては、主力商品の信用を失い、会社の浮沈に関わる問題で、緊急の必要性がある(2)既に報道等で消費者には周知されているので、執行を停止しても世間の人々に重大な影響はない(3)取り消し理由の有無は、本裁判で審理すべき事案である─ということで、一審裁判の判決まで、措置命令発令の効力が凍結されるという結論となりました。
 会社としては、これによって、世間に対しては、消費者庁の決定が正しいとは限らないことがアピールできるとともに、本裁判の中で勝訴ができる可能性があるということになりました。
 万一、企業が、景表法などで処分を受けても、不服があり、また勝算があれば、裁判で争うという道があるわけです。裁判所に執行の停止を求めた上で、裁判所で争い、勝訴をすれば、処分の取り消しが得られます。行政処分は、企業に甚大な影響を及ぼします。消費者庁や都道府県に、十分に慎重になってもらう意味でも、処分に問題を感じた企業には、今回のような法的な手続きをとることを、検討してもらいたいと思います。


〈プロフィール〉
 1961年東京生まれ。85年司法試験合格。86年早稲田大学法学部卒業。88年に弁護士登録して、さくら共同法律事務所に入所し、94年より経営弁護士。現在、130を超える企業・団体の顧問弁護士を務める。会社法などの一般的な法分野に加え、特定商取引法・割賦販売法・景品等表示法・知的財産法を専門分野とし、また、数多くの大規模企業再生・倒産事件を手がけてきた。業界団体である全国直販流通協会の顧問を務める。著書に「こんなにおもしろい弁護士の仕事」Part1~2(中央経済社)などがある。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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