【情報セキュリティー最前線】〈今後の開発計画を聞く〉Capy 最高技術責任者 島田幸輝氏/人工知能で防衛力高める

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む
島田幸輝氏

島田幸輝氏

ウェブサービスの不正ログインを防止する「キャピーキャプチャ」を提供しているCapy(キャピー、本社米国デラウェア州、岡田満雄CEO)。12年10月の創業以来、企業の情報漏えいリスクが高まっていることを背景に「キャピーキャプチャ」の提供先を着実に増やしている。昨年はマイクロソフト主催の世界的なアクセラレーター・プログラム(ベンチャー企業向け支援制度)に選抜され、技術力とアイデアが海外からも高く評価されていることを印象付けた。同社の最高技術責任者を務める島田幸輝氏に、情報セキュリティーの最新動向や今後の商品開発の計画を聞いた。

世界最先端の知見、イスラエルで習得

 ─「キャピーキャプチャ」とはどのようなセキュリティーツールなのか、あらためて教えてください。
 「ウェブサービスのログインページに、マウスの場合はドラッグ・アンド・ドロップ、スマートフォンやタブレットの場合はタッチ操作で完成させる簡単なパズルを導入します。IDやパスワードの入力とともに、パズルを完成させないとログインできなくなるため、よく使われるパスワードを大量に試行する『辞書型攻撃』や、他サービスで流出したパスワードを大量に試行する『リスト型攻撃』の防御に役立ちます」
 ─ユーザーの利便性を損なわずにセキュリティーを高められる上、導入が簡単なことや低コストといったメリットもあり、導入企業は急速に増えていると聞きました。現在の利用社数は。
 「セキュリティーの関係上、具体的な導入社数や社名などは公表できません。ただ、大手通信会社や大手ゲーム会社をはじめ、利用企業数は順調に増えています」
 ─島田さんは14年9月から5カ月間、マイクロソフトがイスラエルで開催した、情報セキュリティー企業向けのアクセラレーター・プログラムに参加したそうですね。プログラムに参加したことで、どのような知見を得ましたか。
 「情報セキュリティーの先進国であるイスラエルで各分野の専門家と交流し、世界最先端のセキュリティー技術やマーケット動向を知ることができました。プログラムでは技術的な知識に加え、ベンチャー企業を経営するための戦略、国際的なマーケティング理論、チームマネジメントの手法、プロダクト開発のノウハウなども幅広く学びました。この経験を生かし、当社のサービスをブラッシュアップしていきます」
 ─世界最先端の情報セキュリティー技術とは。
 「世界的には、人工知能をセキュリティー技術に生かす試みが加速しています。従来は、新しい攻撃手法が出てくるたびに人間が対応策を考えてきました。しかし、それではいたちごっこになり、多種多様な攻撃手法が次々と生み出される現状に対応しきれなくなっています。こうした現状を打破するため、人工知能を活用し、サイバー攻撃に対抗しようというトレンドが生まれています」
 ─どのように人工知能を活用するのですか。
 「例えば、過去のサイバー攻撃の膨大な事例を基に『サイバー攻撃の特徴』をコンピューターに学習させ、新手の攻撃が登場した際に、自動的にサイバー攻撃を検知して対処させる研究などが進んでいます」
 ─「キャピーキャプチャ」にも人工知能を活用していく計画ですか。
 「『キャピーキャプチャ』には、すでに人工知能の要素を取り入れています。例えば、人間的な動きをコンピューターが学習することで、攻撃者がプログラムによりパズルを解こうとした場合、『人間らしくない』と判断し、アクセスを拒否します。また、特定のアカウントが普段ログインする地域や時間帯、利用デバイスのOSといった情報を基に、『その人らしさ』を理解することもできます。そのアカウントを乗っ取った攻撃者が海外のパソコンなどからログインしようとした場合、『本人らしくない動き』と判断し、ログインを拒否する機能も備えています」


攻撃者のIPを即時にリスト化

 ─今年2月、新機能を発表しました。
 「『キャピーキャプチャ』を実装済みのサイトに不正ログインを試みたIPアドレスをデータベース化し、そのIPアドレスからのアクセスを自動的に拒否する『キャピーリアルタイムブラックリスト』を追加しました。攻撃者情報をリアルタイムで蓄積し、不審なIPアドレスを『キャピーキャプチャ』の導入企業全体で共有することで、全体のセキュリティーレベルを高めるサービスです。最新の攻撃者の情報をリアルタイムで更新できるのが最大の強みです。『キャピーリアルタイムブラックリスト』を使うことで、パズルを設置できないウェブサービスを防御することも可能です。ユーザビリティーを下げることなく、あらゆるウェブサービスのセキュリティーを高められるのが特徴です」
 ─セキュリティーベンチャーとしてライバル視している企業はありますか。
 「国内で同じようなサービスを提供している会社はないので、現時点でライバルはいません。ただ、人工知能とセキュリティーの融合が進んでいくことを考えると、フェイスブックやグーグルのような膨大なデータを持っている企業がライバルになる可能性があります」
 ─人工知能を活用するには大量のデータを取得する必要があります。今後、情報セキュリティーツールを開発する上で、大量のデータを持っている企業と提携する可能性はありますか。
 「今まさに、そういった提携の準備を進めています。近いうちに具体化すると思います」
 ─今後の開発の方向性を教えてください。
 「繰り返しになりますが、今後は人工知能とセキュリティーを融合していく時代が来ると思います。そのため、大量のデータを獲得し、それがセキュリティーの向上につながるようなシステムを開発したいと考えています。キャプチャを使った既存のサービスだけでなく、新しい技術を取り入れた新しいソリューションも提供する計画です」


〈プロフィール〉
しまだ・こうき
 1989年生まれ。12年3月に京都大学経済学部卒業。10歳から独学でプログラミングを習得し、高校在学中に複数のウェブサービスを開発した。大学在学中、はてな(本社京都府)でエンジニアとして勤務したほか、複数のスタートアップ企業を立ち上げた経験を持つ。12年10月に岡田満雄CEOと共同でキャピーを設立、最高技術責任者に就任した。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ