国民生活センターが8月3日、「健康食品の摂取により薬物性肝障害を発症することがある」などとする注意喚起を行った。国センにはこれまでに、健康食品の摂取によって「薬物性肝障害」と診断されたという情報が、約3年間で9件寄せられていたという。ただ、今回の発表は多くの疑問を生じさせる内容となっている。あたかも「すべての健康食品には、摂取することにより肝障害を引き起こす可能性がある」ともとられかねない内容になっているからだ。にもかかわらず、国センが根拠として開示した情報の内容があまりに貧弱。業界からは不満や怒りの声が上がっている。
今回の注意喚起の経緯について国センは「薬の副作用として、薬物性肝障害があり、健康食品などでも発症することがある。発症頻度はまれだが、重症化する場合もあることから、寄せられた情報を基に注意喚起を行うことにした」(広報)と説明している。
国センでは14年8月に、医師向けの情報受付窓口として、「医師からの事故情報受付窓口(愛称:ドクターメール箱)」を開設していた。開設から17年7月20日までに179件の情報が寄せられており、そのうちの9件が、健康食品の摂取が肝障害を引き起こしたのではないかとの診断内容だったという。
寄せられた情報は全て、40代以上の人に発症したケースで、そのうち50代が5件だった。全ての事例で、経過観察も含めて1カ月以上医療機関を受診。3件は入院治療を受けたという。9件中3件は、健康食品と医薬品・医薬部外品を併用していたとしている。ただ、肝障害が発症したケースの具体的な内容は明らかにしなかった。
記者会見の場では、「いったどんな成分の健康食品で起きたのか」「どんな薬と飲み合わせた時か」「持病はなかったのか」などといった質問が記者団から飛び交った。ただ、国セン側は「公表していない」(広報)の一点張りだった。「セカンドオピニオンなど厳密な検証はしたのか」の質問には、「そこまではしていない」(同)と回答した。「肝障害発症事例に、機能性表示食品によるものはあったか」との質問には「機能性表示食品の事例はない」(同)とした。
成分名や、飲み合わせていた薬の名称を公にすると、肝障害を引き起こした個人や、肝障害を引き起こすきっかけとされる健康食品を販売する企業が特定できてしまう可能性があるからという配慮があったようだ。
当然のように、業界側からは不満や怒りの声が上がっている。ある健康食品通販企業は、「こんな形で注意喚起の発表をされては、健康食品全体が安全性について風評被害を受けかねない」と声を荒げる。別の大手食品メーカーの健康食品通販事業の責任者も「行政側は健康食品業界をどうしたいのかがわからない」とぼやく。
健康食品業界に詳しい丸の内ソレイユ法律事務所の齋藤健一郎弁護士は「今回の発表は、週刊誌の格好のネタになりかねない。健康食品産業がじわじわとダメージを負うことになりそうで心配だ」としている。
今回のような中途半端な発表内容では、消費者にとって残念ながら何の参考にもならない。一方的に問答無用で全否定された形の健康食品業界も、到底納得はできないだろう。国センには、健康食品を目の仇にするのではなく、フラットな視点から、消費者にとって真に有益な情報のみを提供してもらいたい。
国民生活センター/健食の肝障害に注意喚起/貧弱な根拠に業界からは怒りの声
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