今回は、スマートスピーカーのEC活用の展望についてお伝えします。
当社のメガネスーパーでは昨年末、自社ECサイトに、音声AI「アマゾンアレクサ」搭載のスマートスピーカー経由で音声注文が可能な仕組みを導入しました。今のところ対象顧客が限られる限定的な導入ですが、音声による「ながら注文」が可能になったのが大きな利点です。
現在、アパレルECでは、試着後に返品が可能なサービスが増えています。仲間同士で何十着もまとめて注文して「試着会」を行い、気に入らなかったものは返品する、といった利用例もあるようです。
どちらも、ECによる買い物が「コミュニケーションの一環」に変わる仕組みだと考えられます。
支払い時の「興醒め感」を軽減
スマートスピーカーは、決済をよりシームレスに、スムーズに行うシステムとしても期待できるでしょう。「支払いをしておいて」と伝えるだけで、既に登録されている決済情報を基に、簡単に支払いができる仕組みとして活用が広がると考えられます。
買い物自体は楽しくても、決済はいわば「作業」です。作業による興醒めの瞬間を軽減できるシステムの普及が、買い物体験をより良いものにするのではないかと考えています。
スマートスピーカー単体での注文・決済は、まだ使用可能な状況がかなり限定的です。大きな弱点は、「商品を選ぶ」というフローが行えない点でしょう。
商品選択の時点では、やはり視覚情報が重要です。「スマホ端末と連携する」「ディスプレイがある機器にAIを搭載する」─などが必要になります。
閲覧はカタログ(紙)で、注文はスマートスピーカーを使った音声で、といった組み合わせ方も、「ながら注文」の新しい技術となり得るのではないでしょうか。
米国のAIスピーカーにはすでに、音声AIによるレコメンドやコーディネート提案などの機能が搭載されていると聞いています。商品選択から決済に至るまでの各フローを、いかに顧客とのコミュニケーションという「体験」に変えられるかが、技術活用における課題となるでしょう。
新技術導入の前に目的設定を
第1回からこの第10回まで、EC業界の最先端テクノロジーについて解説してきました。しかし一貫して言えるのは、「テクノロジーはあくまで売り上げアップの手段にすぎない」ということです。
スマートスピーカーも、注文や決済を、「コミュニケーションの一環」としてスムーズに行える可能性がある手段の一つと言えます。もっというと、ECも、生活者に手軽に商品を買ってもらえるための「手段」でしかありません。
必ずしもトレンドに乗る必要はありません。まずは自社の「商売」を見つめ直し、自社の目的や目標を定め、課題に対してどのように対処するのか、ということを分析・決定するのが重要です。
〈プロフィール〉
ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 事業本部長
川添・隆(かわぞえ・たかし)
アパレル関連企業2社を経験後、前職ではEC事業責任者として売上倍増に寄与した。2018年4月よりビジョナリーホールディングスで現職。ECを4年で3・4倍に拡大。オムニチャネルに取り組む傍ら、コンサルも手掛け、EC関連のセミナーにも多数登壇している。
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