【一般社団法人 日本イーコマース学会 中島成浩理事・江藤政親理事・やすひさてっぺい理事・茶原仁美理事・宮松利博理事】ECに特化し「AI」「働き方」など研究

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(前列左から)江藤政親理事、中島成浩理事、(後列左から)茶原仁美理事、やすひさてっぺい理事、宮末利博理事

(前列左から)江藤政親理事、中島成浩理事、(後列左から)茶原仁美理事、やすひさてっぺい理事、宮末利博理事

 大学教授や著名なEC業界の経営者、コンサルタントによって一般社団法人日本イーコマース学会(本部東京都、西村昭治代表理事)が設立された。同学会では、通販事業に人工知能(AI)や仮想現実(VR)などの最新技術をいかに応用するかを研究し、参加する通販事業者と成果を共有するという。全国に支部を作り、オープンに参加企業を募る計画だ。EC業界初の学会が研究するテーマは、テクノロジーだけではなく、「メンタルヘルス」「従業員の働き方」など多岐にわたる。学会の理念や活動内容について理事に話を聞いた。

 ーーー学会設立の経緯は。

 中島 AIの勉強会「AIコンソーシアム」を1年間、毎月のように開催したところ、大変な盛り上がりだった。このまま終わらせるのはもったいないと考え、AIだけでなく、幅広くECのテクノロジーなどについて扱う学会として「日本イーコマース学会」を立ち上げることになった。
 江藤 学会について大学教授に聞いてみると、実際のデータを基に研究している学会は意外に少ないことが分かった。研究内容が実際にどう生かされているか、実業でどう成果を出しているかなどについても知見が少ない学会が多い。「AIコンソーシアム」では、研究者と事業者が産学一体となって議論していたが、こういう環境が貴重だと気付いた。

■AtoBtoCがコンセプト

 ーーーECに特化した学会ということだが、どんな活動を行うのか。

 宮松 中小企業が最新テクノロジーを活用できるようになるまでは時間がかかる。こうした状況を打破するため、事業者だけでもがいていても難しく、研究者はデータが不足していた。EC事業者はダイレクトに消費者とつながっている。アカデミック(A)、ビジネス(B)、コンシューマー(C)をつなげていけるような活動をしたい。「AtoBtoC」が学会のコンセプトとなっている。
 具体的にはEC事業者が「これだけのデータがあるからこういう仕組みを作りたい。でも技術がない、研究も開発も自分たちではできない」と声を上げたときに、大学が「その研究をやる」と手を挙げてもらい、実データを基に研究を進めてもらう。さらにその研究結果を共有することで、参加者が「こういうサービスにもその技術は汎用的に使える」とヒントを得ることができる。これまでと異なる流れでEC業界に新しい技術が入ってくる。
 江藤 中期的な目標になるかもしれないが、ECの研究を進めることで、ECのノウハウや技術をカリキュラムとしてまとめることができるんじゃないかと考えている。そうすればECの学部ができるかもしれない。MBAで経営について体系的に学べるのと同じだ。
 企業はこれから、必ずECに関わることになる。だったら学生がECの基礎知識を習得し、社会に出た方が活躍できる。ECの学科で学ぶと就職が有利になったり、企業もそういう人材が欲しいという風になるかもしれない。そうすればEC業界に優秀な人材が入ってくることになるし、人材不足の問題も解消できる。学生にとっても絶対に興味ある分野だと思う。
 中島 学会は全国で活動する。今のところ北海道、東北、関東、東海、関西、四国・中国、九州・沖縄の7カ所に支部を設ける予定だ。各地域の顔役に支部長になってもらう予定だ。将来的にはもう少し細分化するかもしれない。
 基本的にはオープンな組織で誰でも参加できるようにする。そのため、所属する企業の規模や参加者のニーズはバラバラになるだろう。「AIについて勉強したい」という人もいれば、「その前にパソコンの使い方教えてよ」というくらい差が出ると思う。分科会のようなテーマ別のコミュニティーをたくさん作り、学んだり議論できる場を作ればいいと思う。
 やすひさ 参加者がフラットな関係で教え合い、学び合うような組織が作れると思う。それぞれの地域や学びたいテーマを連携させるイメージはできている。地域を縦軸、テーマを横軸とすると、横軸と縦軸が重なり合うことで、異なる地域の人たちがテーマでつながったり、同じ地域の人から新しいテーマへの気付きを得られたりする。同時多発的なさまざまな研究やビジネスの連携が生まれてくる関係性にしたい。
 中島 学会としてはAIを語った怪しいサービスは是正していかないといけないと考えている。そういう役割を担う組織の大元が「金もうけ」ではなく、純粋に「研究」であるということが重要だ。実績やデータを持つ優れたサービスなら学会で論文として成果を発表してもらい、お墨付きを出せる。ブラックボックスの中でAIと言っているサービスは認められない。

■AIとの共存も研究

 ーーー学会ではテクノロジー以外の研究テーマもあるのか。

 中島 「メンタルヘルス」もテーマの一つ。個人的にも以前から心理学を組織作りに生かす必要性を感じていた。早稲田大学に社会人学生として通い、勉強していたこともある。EC業界は昔から「売り上げを上げるためには寝ずに頑張る」というようなブラックな傾向がある。携わる人のメンタルもフォローしていかないと業界の健全性は保てない。
 茶原 ECはまだまだ新しい業界。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という言葉もあるが、働く人の生活の質には、労働環境が大きく影響する。過酷な労働環境をどう改善すればいいか、AIと従業員がどう共存していくかなど多くのテーマがある中で心理的なサポートも必要になってくる。従業員だけでなく、企業オーナーの心理的な支援を、アカデミックを交えながら取り組んでいきたい。
 中島 ECはアウトソーシングで回ってしまう。現在、1日の大半をコピペ作業で終えている人がかなりいるはずだ。こうした従業員の存在価値が問われるときが来る。従業員は働き方を変えていかないといけない。クリエーティブな部分を磨かないといけない。これはECだけに限ったことではないが、AIが進化することで人は存在価値を問われるフェーズに入る。働き方の追求は、学術的にも重要なテーマになるはずだ。

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