楽天はユーザーの志向性や利用デバイスの変化に対応し、自らも大きく変わろうとしている。配送や決済、コンテンツなどで共通のルールを設け、ユーザーにとって分かりやすい売り場作りを目指す。一方、「楽天市場」の強みである”店舗のユニークネス(独自性)”はさらに伸ばしていく方針だ。変化に挑む楽天の戦略や狙いを、執行役員コマースカンパニーCCO&ディレクターの野原彰人氏に聞いた。
─2020年、「楽天市場」の目指す方向性は。
20年も売り場の品質を良くして、ユーザーがしっかりと満足できるものにしていく。ユーザーの志向は変わってきている。変化に対応していかないと売り場は存続できない。しっかりと意志を持って、今後も長くユーザーに支持される売り場を店舗と二人三脚で作っていきたい。
今後、ユーザーが購買に意味や意義を求める時代に入っていくと思う。同じ商品を買うにしても、「あの顔が見える店舗で買いたい」と思うユーザーが増えていくだろう。「楽天市場」の最大の強みは、個性豊かな約4万9000もの店舗の集合体であること。さらに機能面を一定程度統一し、利便性を向上することで、次に来る”買うことの意味を求める時代”において、「楽天市場」の強みを一層発揮できるだろう。そのために一つ一つの施策を店舗とともに進めていきたい。
■ユーザーとの対話強化
─強みである”店舗力”をどのように高めていくのか。
もともと楽天はECで店舗とともに成長してきた。ドラッカーが企業の目的は「顧客の創造である」と言っているが、”ネット通販、ECの顧客”を創造してきた点に楽天の価値がある。これは社会的な意義があり、われわれも胸を張ることができると思っている。ただ、これは楽天だけで創造してきたものではなく、店舗と一緒に作ってきたものだ。店舗とユーザーが積み重ねてきたコミュニケーションが、「楽天市場」というブランドを支えている。
現在、総務省によるとスマホ保有率は71.8%に達し、状況は変わってきた。パソコンの時代はユーザーが「楽天市場」で商品を探す際、店舗のトップページに入り、そこから商品ページに訪れるため、ユーザーは店舗の顔が見えていた。しかし、スマホになると検索結果から商品ページを訪れるため、店舗の顔が見えづらくなっている。
店舗とユーザーのコミュニケーションを再構築することで、楽天の魅力をさらに高めたいと考えている。店舗とユーザーのメッセージングサービス「R―Messe(アールメッセ)」は、その一環だ。「R―Messe」を活用したユーザーの方が転換率は3.6倍高くなり、客単価は1.9倍高くなるという調査データも出ている。
■参加店は33%増の成長
─楽天と店舗とのコミュニケーションも強化するのか。
店舗が店舗にレクチャーする「NATIONS(ネーションズ)」はこれまで累計3600店が参加した。19年12月の「楽天スーパーSALE」では「NATIONS」参加中の店舗の成長率は、33.3%増となっている。
参加店舗が売り上げ2倍を目指す「NATIONS」に加え、新たに「NATIONS BASIC(ネーションズベーシック)」という月商50万円を目指すビギナー店向けのプログラムの提供も開始している。
1年以上かけて47都道府県で開催したタウンミーティングは20年も継続していく。地理的な要因によっても店舗の運営状況は異なる。対面での対話の機会は重要だと改めて感じている。都道府県単位で実施したことで、参加店舗同士の結束が強まっていると感じた。今後も形を変えながら継続し、次の方向性を共有するとともに、お声をしっかり伺っていきたい。
■対応方法を伝える
─「共通の送料無料ライン」の導入もユーザーの変化に対応する一手なのか。
「楽天市場」はマーケットプレイスなので、店舗ごとの送料が異なることをユーザーに理解してもらうためにこれまで努力はしてきた。しかし、スマホで検索し、商品ページにダイレクトに来た新しいユーザーはそんな事情を考慮してくれない。総務省によると、スマホ経由の購買率は、日本全体では47%と諸外国と比べて高くないが、「楽天市場」は74%超まできている。日本全体でもスマホ購入の伸びしろはまだある。
品ぞろえや探しやすさの部分は、競合との差分がなくなり、むしろ優位性を出せている。一方、配送や送料に関しては改善の余地があり、共通の送料無料ラインを導入することで、より分かりやすく、購買しやすくなる。
─一部の店舗から対応を懸念する声も上がっている。
19年8月に「共通の送料無料ライン」の具体的な話をしてから、タウンミーティングで店舗からご意見をいただき、できる限り施策に反映している。「どう対応したらいいか分からない」という店舗が多いことも理解している。その際には、まず自店舗の現状の把握から始めていただくことを提案している。そのために、売り上げ情報をCSVでダウンロードし、どの商品が何個売れていて送料がいくらかかっているかが把握できる「受注分析データ」を提供する。具体的な対応方法を伝えられていない点は反省すべきところ。楽天大学の講座や、eラーニング形式の講座「楽天大学エックス(RUx)」でハウツーを教えるコンテンツを提供したいと考えている。
商品価格の決定は店舗の自主的な判断に任せており、当社から店舗へ特定の価格を推奨することはないが、実現に向けて店舗と丁寧にコミュニケーションを図り、理解を求めていく。
■送料無料が売上の大半
─任意での導入という選択肢もあるのか。
仮に任意制にした場合、ユーザーからすると分かりにくくなってしまう懸念がある。ただ、店舗の声を踏まえて、沖縄や離島の店舗の場合には、送料無料ラインを任意の額に設定いただけるよう、ガイドラインを変更している。現状の「楽天市場」では送料無料(商品価格に送料込み)の商品よりも送料別の商品の方が点数は多い。しかし、注文件数で見ると、送料無料の方が過半数を超えている。こうしたデータからも全店にご協力いただき、実現していきたいと考えている。
【Eコマース業界地図〈「ECモール&プラットフォーム編」〉】 〈楽天市場〉楽天 野原彰人執行役員 コマースカンパニーCCO&ディレクター/ユーザー変化に応じ、楽天も変化に挑む
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