【訪販営業支援〜8人が語る「営業のメソッド」〜】プライム・アソシエイツ 桑原正守 社長/力発揮できないのはOSが古いから

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桑原正守 社長

桑原正守 社長

 「現場学」を軸とした「実践コンサル」として多くの企業・個人から強い支持を受けているのが、プライム・アソシエイツ(本社東京都、(電)03―6380―9318)の桑原正守社長だ。説得力と軽快さを兼ね備えたセミナー・研修は高く評価されており、東京大学、京都大学、大阪大学などの高等教育機関からも講演依頼が多数寄せられている。「交渉力」「モテ方」「逆説心理学」など、常に新たなテーマに取り組んでおり、「出来る法則」を心理学・現場学に基づきテクノロジー化、多くの人に実践を促し、成功に導いている。「すべての営業マンは素晴らしい。力が発揮できないのは、中のOS(オペレーティング・システム)が古いから」と話す桑原社長に話を聞いた。

 ーーーコンサルタントになった経緯を教えてください。

 桑原 1965年に新潟で生まれましたが、その後「いつかは社長に」と志し、高卒で上京しました。松屋デパートのウェイターから、実力を付けるためフルコミの営業の世界に入り、数社の営業職を経験しました。家電、化粧品、教材など扱う商品はそれぞれの会社で違いましたが、関わったすべての営業でナンバーワンになったのです。能力開発プログラムの販売で世界80カ国に展開していた企業では、個人・マネージャー・販売会社の3部門で日本一はもちろん、世界一を達成しました。
 03年に現場で培ったセールスやコミュニケーションのノウハウをプログラム化し、現在のソーシャル・アライアンスを設立。それを岡根芳樹現社長に引き継いでもらい、経営コンサルティングや各種講座を行うプライム・アソシエイツを13年に立ち上げたのです。

 ーーー売り上げが思うように伸びない訪販企業も多いのですが、訪販業界で売上高や営業成績を高めていくために必要なことを教えてください。

 桑原 一つ申し上げておきたいのは、「現場の営業マンはすべて素晴らしい」ということです。それなのに営業成績が上がらないのは、OSが古いからです。最新の高性能なパソコンを買ってきたとしましょう。どんなに素晴らしいパソコンでも、ウィンドウズ95をインストールしたら、期待したような働きをするでしょうか。営業の世界でも同じことが起きています。「断られてからが営業だ」とか「ニーズを聞き出せ」とか、決してそのやり方が間違っているわけではありません。ウィンドウズ95も、発売した当時は、最新の素晴らしい方法だったのです。ただ、世の中も、マーケットも、同業者も変化しています。ネットショッピングが一般化し、ネットでレビューをチェックするのが当たり前の時代に、ネットがなかった時代の営業ノウハウが通じるでしょうか。古いOSのままで最高のパフォーマンスを生み出せるとは思えません。「この先、時代はこう変わるから、こういう営業の方法が必要になる」という教育が必要なのですが、それがなされていないのが現状ではないでしょうか。

 ーーー営業現場をどういう風に改善するとよいでしょうか。

 桑原 例えば、営業系の会社で、「下手だなぁ」と思うのは、「コミットメント」の使い方ですね。営業の現場では今だに、上司が「お前は受注を何件とってくるんだ?」と圧をかけ、営業マンが「はい、3件とってきます」と答えるといった安易なコミットメントが横行していると思います。でも、そのとき潜在意識に耳を傾けると、どう言っているでしょうか。「無理無理そんなの」「ま~たそんなこと言っているよ」と反発しているではないでしょうか。それでは意味がありません。そのコミットメントがむしろ、悪い結果を生み出しているのです。
 コミットメントがすべて悪いとはいいません。ただ、コミットメントが機能するためには条件があるのです。
 その一つは自分の責任において発動できることしかコミットできないということです。例えば、「100万円の契約をとってきます」というのはコミットできるでしょうか。相手があることですから、そんなコミットは本来無理なのです。
 ただ「今日は1日50件のアポ取り電話をかけます」というのならば、自分で発動できることですからコミットはできるでしょう。
 いずれにせよ潜在意識が反発するようなコミットメントは機能しません。人間を支配しているのは潜在意識です。例えば私が「100メートルを9秒台で走ります」とコミットできるでしょうか。そんなコミットメントをしたら潜在意識は「そんなの無理に決まっている」と猛反発するでしょう。潜在意識が反発するようなコミットメントはしても、良い結果にはつながりません。
 潜在意識のことを考えると、コミットメントなんてそうたやすくしてよいものではありません。私の会社のスタッフはコミットメントをするのではなく、「予感」とか「できそうな気がします」とか、そんな言葉を使っています。100メートルを9秒代で走れそうな「予感」がする人はあまりいないでしょう。その予感にときめくかどうかです。それに「予感」ならば、誰かに約束をしたわけではありませんから、責任をとる必要もありません。

 ーーーコミュニケーションが苦手で契約がとれないという営業マンも多いと思いますが、何かアドバイスはありますか。

 桑原 例えば、顧客を引き付ける人間になりたいのならば、「立場の恩人」になることをお勧めします。「命の恩人」という言葉がありますが、人間が命よりも大事にしていることが、実は「立場」です。毎年たくさんの人が自殺しますが、自殺した人の財布の中には、結構なお金が入っていることが多いといいます。生活に困って自殺するのではなく、自分の「立場」がなくなってしまったから自殺するのです。「命」より「立場」が大切なのです。人はつい、自分自身の「立場」を作ろうとしますが、相手の「立場」を作ってあげる「立場の恩人」になれば、営業相手からだけでなく、他のさまざまな人から「モテる」ことができます。会話でティーアップするのも有効ですし、自分を下げて、相手の「立場」を作ってあげる方法もいいでしょう。

 ーーー営業マネージャーが営業マンを指導する上で心掛けるべき点はありますか。

 桑原 昔は、「上司は部下に黙って背中を見せるんだ」といいました。私は、今の上司は「背中」ではなく「腹」を見せた方がよいと思っています。困っていることがあっても部下には隠そうとする上司は多いですが、部下に、困っている本音を話して、意見を求めるのです。切ないときは切なさを見せればいいんです。想像の外側のギャップが人を引き付けます。
 上司は、喜怒哀楽をちゃんと表現することも大事です。最近の風潮では、喜びや楽しみはいいけれど、悲しみや怒りは出してはいけないと言われます。でも、そうではありません。部下が、うまくいったときには、その部下以上に心から喜びを表現してください。逆に部下が失敗して悲しんでいるときは、心から一緒に悲しむことだと思います。

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