〈消費者安全法〉 検証不可能な情報で社名公表/平時から社名公表に備えた社内体制を

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 消費者安全法に基づく社名公表の件数が増加傾向にある。「アマゾンで儲かる」などと在宅型ビジネスのマニュアルを販売していたアシストラインや、ダイエットサプリ「ケトジェンヌ」を販売するイーサイクルが、同法に基づき社名公表されたのは記憶に新しい。消費者庁発足当初は年に数件だった、社名公表の件数は、16年度以降、10件を超える状態が続いている。消費者庁は法執行強化の方針を掲げており、今後も社名公表の件数が増える可能性がある。社名の早期公表には、消費者被害の未然防止、拡大抑止につながりやすいというメリットがある。一方で、根拠となる事故情報と、事業者との関連性が不明確であっても、社名公表が行われる可能性があり、問題性をはらむ。最悪の場合、製品やサービスに問題がなくても、「相談件数が多い」という理由で社名公表が行われる可能性もある。公表の根拠となる、PIO―NETの情報は、事業者にとって匿名性が高く、実際の被害実態の検証や原因究明を行うことができない。消費者関連法に詳しい弁護士は「平時から社名公表という『有事』の発生を想定した社内体制を構築する必要がある」と話している。

■財産分野は執行件数増に

 消費者安全法は、消費生活センターの設置や消費生活相談員の任用などを規定する法律だ。消費者被害の発生・拡大の防止を目的に、消費者事故について注意喚起することも定めている。
 消費者事故としては、「生命身体事故」と「財産分野」の二つを規定している。「生命身体事故」の発生による注意喚起は、19年1月以降、「太陽光パネルによる火災事故」や「スポンジのおもちゃの誤使用」など、「ケトジェンヌ」を含めて計5件行われている。5件のうち、社名公表が行われたのは、「ケトジェンヌ」を販売するイーサイクルのみとなっている。健康食品に関する注意喚起と社名公表が行われたのも、「ケトジェンヌ」が初めてだ。
 一方、「財産分野」の消費者事故については、誇大広告や不実告知による消費者トラブルの注意喚起と、事業者の社名公表が19年1月以降、9件行われている。財産分野に関する消費者安全法に基づく注意喚起はわずかだが増加傾向にあり、16年度は10件、17年度は10件、18年度は12件だった。
 消費者関連法に詳しい西村あさひ法律事務所の森田多恵子弁護士は、「前消費者庁長官時代から、消費者庁全体で法執行強化の流れになっており、消費者安全法もその流れを組んでいるのではないか」と話している。


■原因は製造工程以外か

 消費者安全法に基づく社名公表は、効果的に使えば被害の未然防止、拡大防止に貢献すると考えられる。ただ、一歩間違うと、因果関係が不明確な情報で、一つの商品、一つの企業に死刑宣告を言い渡してしまうリスクもはらんでいる。例えば、ダイエットサプリ「ケトジェンヌ」の一件がある。
 消費者庁は9月6日、イーサイクル(本社東京都、現TOLUTO)が販売する「ケトジェンヌ」について、下痢などの健康被害が発生しているとして、消費者安全法に基づく注意喚起と社名公表を行った。
 消費者庁が所管する事故情報データバンクには、「ケトジェンヌを服用して激しい下痢になった」などといった消費者からの相談が、19年4月以降に89件寄せられていたのだという。
 消費者庁は、「事故情報データバンクに寄せられた健康被害の情報が、『ケトジェンヌ』と関連性がかなり高いことを考慮して、注意喚起を行った」(消費者安全課)としている。ただ、現時点では、89件の健康被害相談が、本当に製品の問題によって寄せられたものなのか、疑問が残る状態だ。

(続きは、「日本流通産業新聞」10月24日号で)

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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