【消費者庁 〈機能性表示食品の撤回要請〉】 「歩行能力の改善」がターゲット/「何のための届け出か」業界からは怨嗟の声

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

 機能性表示食品制度に激震が走っている─。消費者庁が11月中旬以降、機能性表示食品の届け出事業者の一部に対して、届け出の撤回を要請していることが、このほど本紙の取材で明らかになった。ターゲットになったとみられるのが「歩行能力の改善」を機能性表示の内容に含む機能性表示食品。現時点で14品目の届け出が受理されており、そのうち4品目は今年11月中旬以降に届け出が撤回されている。厚労省が11月初旬に、「『歩行能力の改善』は薬機法違反に当たる恐れがある」と消費者庁に伝えたことが、撤回要請のきっかけとなったようだ。業界内からは「届け出が受理されても、後出しじゃんけんで表示の問題が指摘されるのならば、何のために機能性表示食品の届け出をするのか分からない」といった怨嗟(えんさ)の声も上がっている。


 今回問題とされたのは「歩行能力の改善に役立つ」「歩行能力の改善をサポートする」といった表現を機能性表示に盛り込んだ機能性表示食品。機能性関与成分をみると、14品目中11品目が「HMB」。残りの3品目(内1品目は今年2月に撤回済み)は、味の素が届け出を行った、「ロイシン40%配合必須アミノ酸」を機能性関与成分とするものだった=別表参照。
 シーナコーポレーション(本社福岡県)では、11月中旬に消費者庁から通知を受け取ったという。消費者庁への来訪を要請する内容だった。同社では「届け出の撤回を要請されるのが明らかだったため、わざわざ東京まではいかなかった」としている。
 同社は11月21日付で届け出を撤回した。11月下旬から商品を販売する予定だったといい、パッケージなどの資材も含め、すべて準備が整っていたとしている。
 エルビー(本社埼玉県)も消費者庁からの来報要請があったことを認めている。「消費者庁からはヒアリングと聞いていた」と話す。協和(本社東京都)も、「消費者庁から問い合わせは来ている。今後協議を重ねていくことになるのでは」と話している。HMBカルシウム配合の機能性表示食品の届け出を行っていた別の1社も11月中旬に消費者庁から通知を受け取った。担当者は「消費者庁の話をまだ聞いていないが、撤回の要請を受けるのだろう。残念だが、受け入れざるをえない」と話していた。


■複数の担当者から撤回を勧められ
 複数の関係者の話を総合すると、消費者庁を来訪した事業者は、複数の担当者から届け出の撤回を勧められるのだという。消費者庁は、「歩行能力の改善」という機能性が、「薬機法違反に当たる恐れがあるという情報が厚労省から寄せられた」などと説明。事業者に対応を促すのだとしている。法令上、届け出の一方的な取り消しを消費者庁が行うことはできない。そのため、薬機法違反の恐れをちらつかせながら、事業者に自主的な撤回を勧める形式をとっている。
 撤回要請を行っているか否かについて消費者庁に取材したところ、「個別的な事案に関することは一切お話できない」(食品表示企画課)とコメント。ただ、「あくまで一般論」としながらも「厚労省に限らず、機能性表示食品についてさまざまな情報通報が寄せられた時に、事業者から話を聞いたりすることはある」と話した。「事業者が必要と判断すれば、届け出を撤回することもあるのではないか」ともした。
 HMBカルシウムの原料メーカーである小林香料(本社東京都)では「まだ情報収集を進めている段階で、コメントできることは何もない」と話している。


■厚労省が情報提供、対応は消費者庁
 消費者庁に「薬機法違反の恐れあり」という情報提供を行ったとされる厚労省ではどう答えるのか。
 同省に聞いたところ、あっさりと事実を認めた。厚労省では「『歩行能力の改善』をうたう機能性表示食品について薬機法違反の恐れがあるという情報提供を、11月初旬に消費者庁に対して行った。厚労省として行ったのは機能性表示食品1件についての情報提供。その後の対応は消費者庁が考えることだろう」(監視指導・麻薬対策課)と話す。
 「歩行能力の改善」がなぜ薬機法違反に当たる恐れがあるのかについて厚労省では、「この件についてエビデンスの内容は一切確認していない。あくまで表現が不適切なので指摘した。『改善』という言葉を使ったから即違反というわけではないが、成分の摂取だけで歩行能力が改善できるかのような表示は『健康の維持・増進』の範ちゅうを超えていると判断した」と話す。
 ではなぜ?今さら?指摘するのか。この点については「機能性表示食品のすべての受理案件について厚労省でチェックを行っているわけではない。行き過ぎた広告を行っている案件があり、機能性表示の内容にも薬機法違反の恐れが見つかったため、消費者庁に対して指摘した」と話している。
 今後も同様の事例が出てくる可能性が否定できない状況だ。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ