【千原弁護士の法律Q&A】▼199▲ 認知症の疑いある顧客関係者から返金請求を受けたが…。

千葉先生

〈質問〉

 当社は会場を貸し切りにして、呉服、宝飾品や健康食品などのイベント販売を行っています。消費生活センターが介入したAさんというお客さまの案件で困っています。Aさんは、現在、75歳ですが、65歳の頃から、いろいろな商品を購入いただき、10年間の購入総額は約3000万円となっています。今回、娘さんから、Aさんに認知症の疑いがあるとして、センター経由で、取引履歴の開示と返金の請求を受けました。当社では以前から、賞味期限切れの食品や、オーダーメイドの呉服など以外については、ある程度返品に応じるようにしています。今回も500万円ほどについては返金に応じるつもりでしたが、Aさん側(娘さん)は、最低2000万円の返金をすべきだと主張して平行線になってしまいました。センターの担当者は、当社の言い分(少なくとも最近までは、判断力に全く問題がなかったこと、Aさんが仕事を持たれて、十分な収入があったことなど)について、聞く耳を持ってくれません。以前のこのコーナーの相談で千原先生は、こういう場合は訴訟に持ち込んだ方が良いとアドバイスをされていた記憶があります。ただ、行政の不興を買うのではないかということも心配なのです。(催事販売会社社長)

〈回答〉 裁判では完全勝訴も十分にあり得る

 私は、本件については、裁判(あるいは調停)をお勧めします。ご心配の部分も含めて、私が訴訟をすべきと考える理由などについて説明します。
 1 まず、本件において、Aさん側の主張は過大ですので、仮に裁判所での判決になった場合は、貴社の完全勝訴(貴社が一円も払わない結論)まで、十分にあり得ると私は思います。
 訴訟の方法としては「債務不存在確認請求」というものがあり、貴社側から訴えることができます。勝訴すれば、貴社の支払い義務がないことは法的に確定します。
 2 裁判は、弁護士に頼まなければならず、その費用や、弁護士との打ち合わせなど会社側の手間もかかります。ですので、数十万円単位のトラブルならば訴訟を起こすことは全くお勧めできません。ただ、本件は、総額2000万円ものトラブルなので、費用対効果を考えても、裁判で解決するメリットは十分にあると思います。
 ちなみに、弁護士報酬の目安は、案件の「経済的利益」を基準とします。本件は、相手方のいう2000万円と貴社の500万円の差額の1500万円が経済的利益になると思います。
 多くの弁護士が採用する旧日弁連の基準に当てはめると、着手金が84万円、成功報酬は結果次第ですが、貴社の希望どおりに解決すれば168万円が目安になります。
 今は、弁護士の過当競争時代なので、報酬条件については交渉可能だと思います。私も顧問会社の案件などならば、もっとリーズナブルな条件をご提示すると思います。
 3 ご心配の行政への配慮ですが、「三権分立」の原則によって、裁判所が関与すれば、行政は手を引かなければなりません。さらに、裁判所で勝訴し、あるいは和解をした案件をもとに行政処分をすることもあり得ないでしょう。心配ご無用です。
 4 最後に、もう一つ、裁判所に「調停」を申し立てる方法もあります。こちらは、調停委員を交えての話し合いが基本なので、訴訟よりは穏やかですし、多くの消費生活センターのように、一方的に消費者の肩を持つこともありません。
 弁護士に頼まずに手続きができますし、訴訟と同じく行政は介入できません。ということで、こちらも選択肢といえるでしょう。


〈プロフィール〉
 1961年東京生まれ。85年司法試験合格。86年早稲田大学法学部卒業。88年に弁護士登録して、さくら共同法律事務所に入所し、94年より経営弁護士。現在、130を超える企業・団体の顧問弁護士を務める。会社法などの一般的な法分野に加え、特定商取引法・割賦販売法・景品等表示法・知的財産法を専門分野とし、また、数多くの大規模企業再生・倒産事件を手がけてきた。業界団体である全国直販流通協会の顧問を務める。著書に「こんなにおもしろい弁護士の仕事」Part1~2(中央経済社)などがある。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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