【千原弁護士の法律Q&A】▼197▲ みなし労働制無効を訴えてきたが…。

千原弁護士

〈質問〉

 当社では、電話でアポイントをとったお客さま宅に、営業車に乗った営業社員が伺うかたちで訪問販売を行っています。正確な労働時間が把握できないため、社労士さんのアドバイスもあって、「事業場外労働に関するみなし労働制」を採用しており、それに基づいて、定額の賃金を支払っています。先日、男女問題を起こして退社した問題社員が、弁護士を代理人に立てて「当社の制度は無効なので、未払分の賃金を支払え」と要求してきました。請求額は、2年分約200万円という法外なものです。未払い賃金を請求された労働時間の中には、朝礼や、お客さまのアポイント待ちで、車中で休んでいる時間も含まれており、もちろん、当社では支払うつもりはありません。ところが、当社が相談した弁護士は、腰が引けてネガティブなことばかり言います。千原先生であれば、きちんと戦ってくれるのではと思い、ご相談します。(テレアポ訪販会社社長)

〈回答〉 訴訟に発展も 弁護士の意見聞き冷静な判断を

 まず、ご質問のみなし労働制(以下、「本制度」)について言いますと、実際に、裁判になった場合には、会社側の主張が認められるハードルはとても高いです。私も同様のケースの裁判を戦ったことが何度もありますが、すべて非常に苦労しました。相談された弁護士さんのネガティブな態度は、むしろ普通ではないかと思います。
 労働法では、使用者は労働者の労働時間を正確に把握して、当該労働時間に見合った賃金をきちんと支払うのが原則となっています。本制度は「どうしても算定ができない場合のやむを得ない例外」として認められたものです。そもそも、貴社のような訪問販売の営業社員の労働時間は、算定しようと思えばできると思います。外勤の営業部員について、本制度の適用がはっきりと否定された判例もあり、貴社の場合、本制度の適用は厳しいと思います。
 テレアポ訪販の場合、携帯電話による報告、指示などによって、労働者の業務を管理しているケースが多いと思います。また、朝、出社をして朝礼などを行い、夜は帰社して営業報告書を書くケースなどが一般的でしょう。出勤時および退勤時にタイムカードを打刻させている会社もあると思います。これらは、全て本制度の適用を否定する方向に働きます。貴社はいかがでしょうか。
 また、貴社では、朝礼や待ち時間などは、労働時間ではないとお考えのようですが、これも間違いです。朝礼はもちろん、待ち時間で、仮に昼寝をしていようと、法律では、はっきりと労働時間とされます。このような厳しい法律のハードルを認識して欲しいと思います。社労士さんは、実際に裁判にさらされる訳ではないので、人によっては、指導が不十分なことがよくあります。
 なお、仮に貴社が支払いを拒否すれば、相手方は「労働審判」を申し立ててくると思います。労働審判を申し立てられれば、裁判所の厳しい審理を受けて、結局、支払いを余儀なくされるケースが多いです。
 その場合は、かけた弁護士費用がムダになり、さらに、労働審判では決着がつかず、訴訟に至った場合には、「付加金」として、本来支払うべき金額の倍額までの支払いを命じられる懲罰リスクまであります。不良社員に「追い銭」を払うのが納得できない気持ちはよく分かりますが、弁護士の意見を聞いて冷静に判断してください。


〈プロフィール〉
 1961年東京生まれ。85年司法試験合格。86年早稲田大学法学部卒業。88年に弁護士登録して、さくら共同法律事務所に入所し、94年より経営弁護士。現在、130を超える企業・団体の顧問弁護士を務める。会社法などの一般的な法分野に加え、特定商取引法・割賦販売法・景品等表示法・知的財産法を専門分野とし、また、数多くの大規模企業再生・倒産事件を手がけてきた。業界団体である全国直販流通協会の顧問を務める。著書に「こんなにおもしろい弁護士の仕事」Part1~2(中央経済社)などがある。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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